鍬(くわ)と剣の和解――領主の難題
村に戻ると、収穫の喜びも束の間、広場では険悪な怒鳴り合いが起きていた。
中心にいるのは、獣人の若者・ガラムと、元公爵家の分隊長だった男・ロルフだ。
「……ふざけるな! なぜ俺たちが、かつて自分たちの家族を殺そうとした奴らと同じ釜の飯を食わなきゃならないんだ!」
「我らだって好きでここにいるわけではない! アヴァン様に命を拾われたから、その恩を返しているだけだ。貴様ら獣人に指図される覚えはない!」
ガラムが牙を剥き、ロルフが腰の剣(今はただの重い鉄塊だが)に手をかける。
アヴァンが近づくと、村の空気は一瞬で冷え切った。兵士も獣人も、彼が次兄カイルをどう「始末」したかを知っている。恐怖が彼らを沈黙させた。
「……喧嘩の理由は、食料の配分?」
アヴァンは静かに、けれど全員に届く声で問いかけた。
「……はい。アヴァン様。こいつら、自分たちの取り分を勝手に増やそうとして……」
「……違います。重い荷運びをしている者には、それ相応の栄養が必要だと言ったまでだ」
アヴァンは二人の間に立ち、足元に落ちていた一本の麦の穂を拾い上げた。
「この麦は、ハンスさんが土を耕し、リリが風を呼び、そして君たちみんなが協力して刈り取ったものだ。……公爵家にいた頃のボクは、一人では何もできなかった。でも、ここではみんながいるから、こんなに美味しいパンが食べられる」
アヴァンは、カイルから奪った「威圧」ではなく、ナリア母様から教わった「祈り」を言葉に込めた。
「ガラム、ロルフ。……明日の朝、二人で一緒に森へ行って、さっきボクが倒したオーガの素材を運んできてほしい。……ガラム、君の鼻がなければ次の魔物を見逃す。ロルフ、君の腕力がなければ素材を運べない。……お互いの力が必要なんだ。……それができたら、明日の夜はバルトに最高の肉料理を作ってもらうよ。……ボクと一緒に、食べてくれるかな?」
領主としての命令ではなく、一人の少年としての切実な願い。
ガラムはバツが悪そうに目を逸らし、ロルフは深く溜息をついて頭を下げた。
「……わかりました。アヴァン様がそう仰るなら」
少しずつ、けれど確実に、この村は「一つの家族」へと脱皮しようとしていた。
【現在の村ステータス】
インフラ: レベル3(温水路、石造りの防壁一部完成)
住民の満足度: 65%(獣人と元兵士の間にまだ溝はあるが、アヴァンへの信頼は絶大)
アヴァンの状態: SP 3500。精神状態は安定。




