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黄金の朝と、森を蝕む影

夜明けの霧が晴れる頃、亡霊のゴースト・タウンは、かつての死寂が嘘のような音に包まれていた。

 カイルとの死闘を経て、この場所はただの「追放地」から、アヴァンの「家」へと変わりつつあった。


アヴァンは領主館の窓を開け、肺いっぱいに冷涼な朝の空気を吸い込む。

 眼下では、透き通った体を持つ下級霊体たちが、まるで熟練の庭師のように器用に動いていた。実体を持たない彼らが持つクワや鎌が、朝露に濡れた黄金の麦を刈り取っていく。その傍らでは、灰狼族の獣人たちが、収穫された麦を力強く脱穀し、元公爵家の兵士たちがその重い袋を倉庫へと運び込む。


「……おはよう、みんな」


ボクの呟きに、バルトが音もなく背後に立ち、温かい湯気を立てるカップを差し出した。


「坊ちゃま、おはようございます。本日のスープは、リリ嬢が森で仕留めた白兎のコンソメでございます。カイル閣下から奪った魔力が馴染んできたせいか、今朝の坊ちゃまの『気』は、一段と澄んでおいでですな」


「ありがとう、バルト。……でも、なんだかまだ不思議な気分だよ。あんなにボクを無能だと笑っていた兵士たちが、今は一生懸命、ボクのために働いてくれているなんて」


「彼らが従っているのは力だけではありません。あなたがもたらした『飢えのない明日』に従っているのです。……さぁ、食後には村の北境へ。リリ嬢が、少々厄介な客人を足止めしているようですぞ」


【魔物狩り:深き森の異形】

村の境界線にある北の森。そこはリリが霊的な糸で「結界」を張っているはずの場所だが、そこから響く唸り声は尋常ではなかった。

 木々をなぎ倒して現れたのは、三メートルを超える巨躯きょくを持つ「ハングリー・オーガ」だ。その皮膚は不自然に赤黒く変色し、口からは濁った涎が絶え間なく垂れている。


「アヴァン、来たわね! こいつ、普通のオーガじゃないわ。正気(魔力)が腐ってる!」


リリの声と共に、ボクは意識を集中させる。

 左腕にハンスの霊力を流し込むと、銀色の重厚な甲手ガントレットが実体化し、右足にはリリの風が渦を巻いた。


「ハンスさん、守りを。ボクが隙を作るよ!」


オーガが雄叫びを上げ、岩のような拳を振り下ろす。ドォォォン! という衝撃波が地面を抉るが、ボクはリリの速度で既にその真横へ滑り込んでいた。


「そこだ!」


蒼銀の剣を一閃させる。だが、オーガの皮膚は鋼のように硬く、浅い傷しかつかない。それどころか、傷口から溢れ出した黒い霧が、ボクの剣を蝕もうと絡みついてくる。


『……小僧、気をつけろ。こいつ、誰かに「毒」を盛られてやがる。正面から付き合うな、コアを叩き込め!』


ハンスの怒鳴り声に合わせ、ボクは剣を強く握り直した。

 カイルから奪った熱い魔力を、一点に凝縮させる。蒼銀の刃が、太陽のような輝きを放ち始めた。


「ハンスさん、最大出力で受け止めて! リリ、風で霧を払って!」


オーガの渾身の一撃を、ハンスの霊力が生み出した巨大な盾が正面から受け止める。衝撃でボクの腕が軋むが、耐えられる。その瞬間の静止――。

 ボクはリリの風に乗ってオーガの懐へ飛び込み、輝く刃をその心臓へと突き立てた。


「――終わりだよ」


ドォォッ! と光が弾け、オーガの巨体が内側から崩壊していく。

 灰となって消える魔物の後には、濁った紫色の魔石が一つ、虚しく転がっていた。


「……ふぅ。これで三体目。バルトの言う通り、森の奥で何かが起きてる。この魔石、浄化しないと村の結界には使えないね」

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