招かれざる「迷い人」と、化かし合いの晩餐
徴税官たちが消えて数日後。村の防壁を監視していた獣人の若者が、鋭い警戒の口笛を鳴らした。
街道から現れたのは、ボロボロの旅装束を纏いながらも、その立ち振る舞いから高貴さが隠しきれない二人組の女性だった。
「……バルト、あれが例の?」
「ええ。隣国エルミニアの第三王女、エルーシャ殿下で間違いありません。あちらの国もアグニール公爵家との国境紛争で手を焼いていますからな。偵察といったところでしょう」
バルトが耳元で囁く。ボクは深呼吸をして、あえて「村の少年」らしい柔らかな笑みを浮かべて彼女たちを迎え入れた。
「こんにちは。……こんな廃村に、何かご用ですか?」
「あら、ごめんなさいね。旅の途中で道に迷ってしまって。少しの間、休ませていただけないかしら?」
エルーシャと名乗った彼女は、極上の微笑みを浮かべる。けれど、その瞳は鋭く村の様子を観察していた。
死者が整然と耕す畑、高度な武術の訓練に励む獣人たち。そして、何よりこの村を統べる「追放されたはずの無能」アヴァンの姿を。
その日の夜、ボクは二人を修復したばかりの領主館へ招待した。
テーブルに並ぶのは、霊力で急速成長させた「黄金の麦」のパンと、獣人たちが仕留めた新鮮な獲物のロースト。
「……素晴らしいわ。廃村と聞いていたけれど、ここには王都の貴族さえ口にできないような『生命力』に溢れた食卓があるのね」
エルーシャが優雅にパンをちぎりながら、ボクを試すように視線を向ける。
「ねぇ、アヴァン様。この村には『見えない働き手』がいるように見えるのだけれど……それはあなたの特別な魔導具のおかげかしら?」
「魔導具なんて、そんな高価なものボクは持っていませんよ。……彼らはただ、この場所を気に入ってくれている『隣人』なんです」
ボクがそう答えると、バルトが絶妙なタイミングでワインを注いだ。
「殿下……失礼、お客様。当村の主は、去る者は追わず、来る者は拒まぬ主義にございまして。……たとえそれが、**『公爵家を潰すための駒』**を探しに来たお方であっても」
空気が凍りついた。
エルーシャの護衛の女剣士が、即座に剣の柄に手をかける。だが、それよりも早く、ハンスの威圧とリリの殺気が彼女たちの背後に実体化した。
「……あら。隠し通せていると思ったのだけれど、優秀な執事がいるようね」
エルーシャは観念したようにため息をつくと、優雅に背筋を伸ばした。
「ええ、認めましょう。私はエルミニアの王女、エルーシャ。アヴァン・アグニール。あなたを公爵家への『最高の毒』として、私たちが買い取ると言ったら……どうするかしら?」
王女が提示したのは、莫大な資金援助と「隣国への亡命」の権利。
公爵家への復讐を急ぐなら、これ以上ない提案だ。けれど、ボクの中にいるハンスが鼻で笑い、リリが「つまんないの」と呟いた気がした。
「……買い取られるのは、お断りします。ボクはもう、誰かの所有物になるのは嫌なんだ。もし手を組むなら、ボクは『隣国の道具』としてではなく、『この村の領主』として対等に握手をしたい」
ボクの言葉に、エルーシャは一瞬驚いたように目を見開き、やがて楽しげに喉を鳴らして笑った。
「面白いわ。追放された無能な少年が、一国の王女に対等であれと言うのね。……いいでしょう、その不遜さ、嫌いじゃないわ。交渉成立よ、アヴァン・アグニール」
【リザルト:隣国との秘密同盟】
獲得アイテム: 隣国エルミニアの通行証、秘密通信用の霊石。
内政支援: 隠密裏に熟練の技術者(非戦闘員)を数名派遣してもらう約束を取り付ける。
アヴァンの状態: 精神的成長。他者に依存せず、自立した領主としての自覚が芽生える




