執事の毒茶会と、消えた使節団
黄金の実りに沸く村に、不吉な鉄靴の音が響く。やってきたのは、公爵家でも指折りの強欲さで知られる徴税官ゾルグと、カイルの行方を探るための「法術師」を伴った使節団だった。
「……何だ、この実りは。報告ではここは不毛の地のはず。ましてや、カイル様がこの程度の廃村で足止めを食らうなどあり得ん。おい、アヴァン! どこに隠れている、この無能がッ!」
ゾルグが馬車から降り立つなり、肥え太った指で村を指差し、汚い声を張り上げる。
アヴァンが怒りに震え、前に出ようとするのを、バルトが手袋を直しながら優雅に制した。
「坊ちゃま。害虫の駆除は、庭師たる私の役目。……あなたは、その清らかなお心のまま、奥で獣人の子供たちと麦の仕分けでもしておいでなさい」
「……バルト。わかった。任せるよ」
アヴァンはバルトの冷たくも確かな忠誠を感じ、獣人の子供たちの元へと戻った。
バルトは一人、修復された領主館のテラスに立ち、見事な手際でテーブルを整え始める。
「……お騒がせして申し訳ございません。アヴァン様はあいにく、急な農務で手が離せぬご様子。代わりに、この私バルトが皆様を最高のおもてなしでお迎えいたしましょう」
ゾルグたちは、バルトの放つあまりに隙のない「完璧な執事」の空気に圧倒され、毒気を抜かれたように席に着いた。
「ふん……。まぁいい。茶を飲み終えたら、カイル様の行方を聞き出し、この麦を全量差し押さえる。公爵閣下への反逆罪になりたくなければな」
【バルトの固有スキル:深淵の茶会】
ゾルグたちが茶を啜った瞬間、世界から音が消えた。
いや、音が消えたのではなく、彼らの**「魔力」と「五感」**が、バルトが淹れた茶に含まれる霊的な毒によって、強制的に遮断されたのだ。
「……な、なんだ。身体が、熱い……。視界が暗くなって……魔力が出ないぞ!?」
「おや、お口に合いませんでしたか? 当然ですな。それは、先ほどあなたが口にした強欲な言葉を、カイル閣下が最期に流した『絶望の雫』で煮出した特製品ですので」
バルトの笑顔が、ゾルグの目には巨大な死神の影となって映る。
隣にいた法術師が慌てて呪文を唱えようとするが、バルトがパチンと指を鳴らすと、影から実体化したリリの矢が、その喉元を正確に貫いた。
『……あんたたち、アヴァンの麦を奪おうとしたわね? その代償、命くらいじゃ足りないわよ』
「……ぎ、ぎぃぃ! 助けて、アヴァン! アヴァン様ぁ!」
「呼びましたか、ゾルグさん」
テラスの陰から、アヴァンが静かに姿を現した。その瞳には、かつての怯えはなく、冷徹な領主の光が宿っている。
「ボクの民を飢えさせようとする人を……ボクはもう、『身内』だなんて思わない。……バルト、あとは任せるよ。彼らも、村の『肥料』にしてあげて」
「御意にございます。……皆様、当村は『ゴミ捨て場』。使い物にならぬゴミは、こうして処理されるのが世の理にございます」
【リザルト:徴税使節団の消滅】
収穫: 収税吏たちが運んでいた「公爵家への上納金(金貨3000枚)」を全額接収。
SP最大値: 3000 → 3500
住民の感情: 獣人たちはバルトの「掃除」を知り、より一層アヴァンへの忠誠を固める。
翌朝、街道には誰もいなくなった馬車だけが虚しく残されていた。
公爵家には「使節団は隣国の工作員による襲撃を受け、行方不明」という偽の情報が、バルトの手によって届けられることになった。




