亡霊たちの「開拓(フロンティア)」
騎士たちが逃げ去り、静寂が戻った廃村。
ボクは手の中に残された五つの銀の指輪を、バルトに手渡した。
「これ、売れば少しは村の修復資金になるかな?」
「いいえ、坊ちゃま。公爵家の刻印があるものを売れば足がつきます。これは溶かして、村の井戸を浄化するための『霊銀』の触媒といたしましょう」
バルトは平然と、騎士の名誉(指輪)を資材扱いした。
ボクたちは、まずは拠点の中心となる「村長の家」——今はただのボロ屋だが——の前に立った。
「坊ちゃま、街づくりとは人の手でするもの。ですがここには人がおりません。……ならば、彼らに働いてもらうのです」
バルトが促すと、右手の紋章が熱を持つ。
ボクは目を閉じ、村の中に漂う、まだ自我も持たない淡い「魂の欠片」たちに呼びかけた。
「……お願い。ボクに、力を貸して。この場所を、みんなが笑って住める場所にしたいんだ」
その瞬間、ボクの体から柔らかな灰色の光が溢れ出し、村全体を包み込んだ。
【内政スキル:死者の使役発動】
対象: 村内に滞留する下級霊体(32体)
効果: 物理干渉力の一時的付与。
維持コスト: 毎時SP 5消費(香炉の加護により相殺可能)
「な、なにこれ……! ほうきが勝手に動いてる!」
リリが驚きの声を上げる。
透き通った腕たちが、崩れたレンガを積み上げ、雑草を刈り取り、窓ガラスを磨き始めた。ハンスが「おい、そこは水平が取れてねぇぞ!」と脳内で大工の棟梁のように指示を飛ばし、リリはリリで「こっちの土壌は風を通したほうがいいわ!」と農園の監督を始める。
「くく……。ハンス殿はかつて砦の建築にも関わっていたと聞きます。リリ嬢の種族は森を育てる天才。……これぞ、生きた人間には不可能な、死者による『超速建築』にございます」
バルトは満足げに頷くと、ボクに一枚の古い羊皮紙を広げて見せた。
「坊ちゃま、この村の地下には、かつて王都さえ潤したという『魔力の水脈』が眠っています。井戸を修復し、この水を引けば……ここは砂漠の中のオアシスにすらなり得る」
数時間後。
ボロボロだった村長の家は、見違えるほど清潔な「領主館」へと姿を変えていた。
そしてボクの視界には、新たな通知が浮かび上がる。




