廃村の要塞化――「ようこそ、ゴミ捨て場へ」
リーニャから届いたナリア母様の香炉のおかげで、ボクの霊力は劇的に回復した。
けれど、安らぎは長くは続かない。バルトが庭の枯れ木に止まった伝書鳥を見つめ、低く告げた。
「坊ちゃま、公爵家からの『掃除屋』が向かっておりますな。総勢五名、かつてあなたを『灰色の無能』と嘲笑っていた見習い騎士たちのようです」
「……父様たちは、ボクが生きていることさえ許さないんだね」
この村は、地図からも消えかかった廃村だ。
崩れた家々、枯れた井戸、雑草に覆われた道。村人は一人もいない。
けれど、今のボクには、頼りになる「家族」がいる。
『……へっ、あんな甘ちゃん共に、この村の土を踏ませる必要はねぇな。小僧、俺が戦場での「陣取り」を教えてやる』
『ボクも手伝うわ。あんな成金騎士たち、森の罠で逆さ吊りにしてやるんだから!』
脳内でハンスとリリが、これまでにないほど意気投合している。
「バルト、ボクに指示を。この『廃村』を、ボクたちの城にするんだ」
「承知いたしました。……ハンス殿、リリ嬢。あなた方の『記憶』を坊ちゃまに繋ぎなさい。死者が守り、生者が統べる……これぞ真の亡霊の村ですな」
【要塞化シークエンス:開始】
ボクが地面に手を触れると、ハンスの戦術記憶が流れ込んできた。
かつて彼が数倍の敵を足止めした「防衛陣」の配置。そこにリリの「猟師の知恵」が加わる。
第一関門: リリの発案。村の入り口、一見安全そうな草むらに「霊力の糸」を張り巡らす。触れれば、ハンスの剛力が宿った倒木が降り注ぐ仕組みだ。
第二関門: バルトの指導。廃屋の影に、霊体を一時的に実体化させる「鏡」を配置。敵には、ボクの幻影が何十人もいるように見えるはずだ。
「……ふぅ、これなら」
「坊ちゃま、仕上げにこれをお飲みなさい」
バルトが差し出したのは、香炉の灰を混ぜた怪しげな薬湯だった。
【ステータス更新:要塞主モード】
個体名: アヴァン・アグニール
状態: 領域支配
効果: 廃村内での「霊力消費量」を30%カット。トラップの発動を感知可能。
「来たよ……。馬の足音が聞こえる」
村の境界線に、緋色のマントを翻した五人の騎士が現れた。
彼らは誰もいないはずの廃村を鼻で笑い、無防備に足を踏み入れる。
「おい、無能のアヴァン! まだ生きてるなら、公爵閣下からの『慈悲(死)』を届けに来てやったぞ!」
その傲慢な声が響いた瞬間、ボクは静かに右手の紋章を光らせた。
「……お疲れ様。でも、ここから先は『ボクたちの家』なんだ。――リリ、やって!」




