第一章4 「その後」
「ーーなさい」
誰かに揺さぶられてる?
ーーうぅん、眠い…
どうせならあと5分は眠っていたい。
起きるのが嫌なわけではないが、なんとなくそう思ってしまう。
「あとごふんぅ……」
「何言ってるの! 早く起きなさい!」
「ひゃぁい!?」
慌てて目を覚ますと、周囲は真っ暗だった。
ただ、誰かに起こされたのは間違いない。
ーーえっと、電気は………
天井に向けて手を伸ばすが、手は空振るばかりだ。
って、電気ないんだっけ。
あぁそうか…刑務所にいるのを忘れていた。いや、魔導監獄だっけ?
「何か呼びました?」
体を起こし、声を上げて尋ねてみたのだが、帰ってきたのは沈黙だった。
さっき誰かに呼ばれてた気がしたんだけど、リアナさんかな?
「リアナさん、いますか?」
ん?
返事がない。
「ワッ!」
「ひゃぁぁぁああぃっ!」
体を揺らされ、檻の中に私の悲鳴が響き渡る。
「ぶっ……変な声!」
くすくすと、楽しそうなリアナの声が聞こえてきた。
「ビックリさせないでよ…」
心臓が鳴り止まない。リアナにはびっくりさせられてばっかりだ。
「ごめんごめん、反応が面白くて」
「はぁ…何か用ですか?」
起こすくらいだから何かあったんだろうか?
「こっちのセリフよ。私に用があったから話しかけたんじゃないの?」
「え? リアナさんが私を呼んだんじゃないんですか?」
「「え?」」
「いやいやいや、リアナさんが私のことを起こしたんでしょ?」
「私がアンナを? 気持ち良さそうに寝てるあなたを起こすなんて…そんなことできないわよ」
嫌な予感がする。
!!背後に誰かいる…?
そんな気がして振り返るが、真っ暗で何も見えない。
手足の震えが止まらない。
それに、どこからともなく視線を感じる。
誰かに見張られているような感覚だ。
「も、もももももしかして幽霊? ね、ねぇ!リアナぁ! 明かりつけてえぇ!怖いよぉぉ!」
「わ、分かったわ! 『イルフィネイト!』」
白いモヤが天井に向かい、弾けて周囲に飛散した。
飛び立った粒子はきらきらと周囲を照らす。
汚い地面に家具ひとつない殺風景な部屋。
壁の隅にはリアナが座っており、辺りを見渡しても他に誰かいるわけでもないし、天井に目玉がついてるわけでもない。
「…誰もいないわね」
「リアナぁぁ」
リアナに向かって飛びつくと、微かに香る甘い香りが私を包んだ。
「え? あ…あぁ、可愛い可愛い」
しかし、誰が私を起こしたんだろう?
「確かにさっき誰かに呼ばれた気がしたんだけど…」
「ただの夢だったんじゃないかしら?」
戸惑ったように微笑むリアナ。
まぁ、それもそうか。
幽霊なんているわけがない、そう。きっとそうだ。多分…そうだ。いや、絶対にそうだ。
「そうよね! さっきのはただの夢!幽霊なんていない幽霊なんていない幽霊なんていない…」
「ふふ、アンナにそんな弱点があったなんてね」
幽霊は怖い。
記憶がないから見たことがあるのかすら分からない。だけど、とても怖いものというのだけは分かる。
「ずっとこうやってていいですか?」
「え、ええ?? わ、分かったわ」
何だろうこの甘くて落ち着く匂い。
懐かしいような感じがする。
「ねぇ、アンナ」
「はいぃ?」
真剣な眼差しを向けてくるリアナ。
ずっとニコニコしていたからこんな表情をするのは意外だ。今回は真面目な話かもしれない。
「私、殺人をしたのよ? いわば犯罪者なの」
ーー?
「聞きましたよぉ? それがどうかしたんですかぁ?」
「!? だからね? そんな警戒もせずに身を許すのはダメよ」
「別に気にしませんよぉ。だってリアナさんは悪い人じゃないしぃ」
子供を助けるために打った魔法が、偶然近くを通りかかった貴族に当たっただけ。悪気があったわけではないだろう。
それに、リアナは悪い人には見えない。
「アンナ…あまり人の言葉を信じるものではないわよ。それに、私が人を殺した事実は変わらないわ」
「うぅーん、そうなんですかぁ……………」
「アンナ…私を抱き枕か何かだと思ってない?……アンナ? ちょっと!?」
眠い………。
ぼんやりとコツ、コツと金属で地面を叩くような音が聞こえてくる。
「ーーい! ーーの時間だ」
やる気のなさそうな男の声、そうして私の意識は暗闇に落ちた。




