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はじめまして、私  作者: 千歳
10/12

第一章10 「希望」

 全身を包む緑色のローブに装飾の派手な花形の紋章。


 この服なんかすごく動きづらい。



「ーーはぁ、はぁ、早い、早いってばー!」


 情けない私の声が暗い廊下に響き渡る。



 私は今、自分より小さくて幼い子供に手を握られ、全力で廊下を駆け抜けている。


 何故そうなったのか、私にも分からない。



 ってかこの子私より早いし、力強いんだけど…??

 なんか、プライドと言うものが削られていく気がする。



「勇者様、運動はちゃんとされてください。このままでは魔王を殺すなんて夢のまた夢ですよ」


 ーー魔王を殺すって……


 見た目に反して物騒すぎない?



「って、ちょっと待って! ここって古い保管庫なんじゃないの? なんで檻があるの?」


「……!! そ、それは……檻が国宝なんです。この国ではそ、そういうプレイが盛んですから……」


 檻が国宝? そういうプレイって…え?


「私、檻の中に入れられてたんだけどそれもそういうことだったの?」


「?!………勇者様は国宝なのです。だから勇者様なのです。国のお宝である檻の中に勇者様を入れたら国宝になって…勇者になるんです」


「ってことはミスレアも檻の中に入れば勇者になれるってことなの?」


「それは絶対に嫌です」


 即答するミスレア。

 僅かに手を握る力が強まった気がした。


 うーん、檻に手錠…いかにも拷問器具って感じのものがあるけど…。

 リアナの言う通り、ここってやっぱり魔導監獄?ってところじゃないかな?



「違います。保管庫です。ヴァゼル様がそう言ったのであればそれ以外あり得ません。惑わされてはいけません」


「やっぱり私の心読んでるよね」


「読んでません」



 それにしても、どこまで走るつもりなんだろう。


 走れば走るほど暗くなって来てる気がするし、良くない臭いも強くなって来てる。

 本当に大丈夫なのだろうか?



「お、おい! たすけてくれ! 俺をここから出してくれぇ!!」


 男の叫び声が檻の中から聞こえてくる。

 しかし、その姿は暗くてよく見えない。



「ミスレア、あれも勇者なの?」


「………」


 片手で頭を押さえるミスレア。

 表情は見えないが、走り方が弱々しく感じる。



「大丈夫?」


 と、軽めに声をかけてみたが、返事は返ってこなかった。



「………」



 うーん、気まずい!!



「ね、ねぇ、フルーチェって知ってる?牛乳と果物を混ぜて作ったもので、とても甘いんだよ!」


 ーー見たことも食べたこともないけど、そういうものだったということだけは分かる!



「………」



 渾身のネタを無視されてしまった、、


 じゃあ、わたあめ?

 アイスクリーム?

 饅頭?



 ーーやばい、話すことが…ない!



「ふぅ…今日もいい天気だね」



 息を切らしながらも、なんとか会話を続ける。



「………外は大雨ですよ。勇者様」


 と、口を開いてくれたミスレア。

 このままフル無視されたら孤独死してしまうところだった。



「そうなの! いいね! 雨!」


 とにかく明るく振る舞ってみた。


「どうしてそんなに明るいんですか。勇者様は記憶を失ってしまったんですよね? 普通の人間であれば絶望し、泣き叫ぶものだと思っていました」



「どうしてって………」


 それを言語化するのは難しい。



 雨とは水が空から沢山降ってくるもの。

 そういうのは分かるが、見たことがないし、イメージができない。


 記憶を失う前の私であれば雨の音も色も匂いもイメージができたのかもしれないが、今の私は違う。



 そんな景色を知らない。



 水は透明だとか、服が濡れると寒くなるとか、そういう知識があっても見たことがない。



 だからこそ見てみたいと思った。



 記憶を失って、今までの自分がいなくなってしまったかもしれないが、そのおかげでこの世界の全てが初体験になった。



 それってなんだか、すごくワクワクしない?



 今の私は生まれたばかりの赤子なのだ。

 だからこそ、知っていけばいいと思う。

 失った記憶を超えるぐらいの記憶を作っていけばいい。


 記憶を失ったことすら忘れるぐらいの記憶を。



 そんな考えがあるせいで、私は絶望することができない。

 絶望するには早過ぎるから。





「………だったら勇者のフリを辞めないことですね。真実が知られれば殺されますよ」


 と、小声で言うミスレア。



「やっぱり心読んでるじゃん……って! ええ!?もしかして…私って今大ピンチ? 勇者じゃないってバレてるの?!」


「何を言ってるんですか。あなたは勇者様です。とぼけないでください。その神剣を持てるのがなによりの証拠です。そして、私たちは一蓮托生。バレた時は一緒に死にましょう」


 そう語るミスレアの表情は青ざめていて今にも死にそうだった。

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