#6 先輩との同棲生活
必要最低限の荷物を詰めたスポーツバッグを抱えて、タワーマンションを見上げた。
「いらっしゃい、ツバサ。よく来たな」
「お、お邪魔します」
広いリビングだった。
大きな窓からは東京の街並みが一望できる。
「すごいですね、先輩」
「広くて落ち着かないよ。セキュリティの管理されたマンションに住めって、事務所からも言われてさ」
ファンが家まで来たり、人気が出ると大変らしい。
「座ってて。コーヒー?紅茶?それとも、コーラ?」
「コーラ、お願いします」
「だよな」
キッチンへ向かう先輩の後ろ姿を見つめながら、オレは冷めない鼓動を必死に抑えていた。
――あぁ、もう、かっこいい。
ラフなスウェット姿も、なんて絵になるんだろう。
冷たいコーラを一口飲み、オレはようやく一息ついた。
「あの、蒼真先輩。家賃とか光熱費とか……オレ、どうすればいいですか?」
高校生のオレが払える額なんて限られているけれど、流石にタダで居座るわけにはいかない。
すると、先輩はソファの背もたれに体を預け、おかしそうに笑った。
「そんなのいらないさ」
「でも」
「家事は分担――というか、ちょっと多くツバサがやってくれたら、俺は助かるかな」
「え、家事ですか?」
「そう。仕事が忙しくて」
先輩は少し困ったように眉を下げた。
「自炊もまともにできてないし、洗濯物も溜まりがちなんだ」
「そんなことでいいなら、オレ、何でもやります」
オレは母子家庭で育っている。
仕事で忙しい母のため、掃除も洗濯も、料理だって一通りはできる。
先輩もそのことを知っていた。
だから、オレに気を遣わせないよう、提案してくれたんだろう。
「蒼真先輩が好きなの、作りますね」
「しばらくは、家に帰るのが楽しみになる」
そう言って、先輩はオレの頭をポンポンと優しく叩いた。
くすぐったい。
頬が赤くなるのを、おさえられなかった。
◆◆◆
広くて快適なバスルーム。
シャワーを浴びて、そろそろ寝る準備だ。
「ツバサ、それ何?」
「あ、これですか?寝袋です」
「え?」
蒼真先輩は呆れたように笑った。
「こっちおいで」
そのままオレの手を引いて、寝室へと向かう。
案内された部屋の真ん中には、大きなベッドがひとつ。
「見ての通り、ベッドはひとつ」
「は、はい。なので、リビングをお借りします。寝袋があるので、全然気にしないでください!」
先輩はベッドの縁に腰を下ろすと、トントン、と自分の隣のスペースを軽く叩いた。
「ツバサは、ここ」
「いや、でも」
「一緒に寝よう」
「いやいや、そんなの恐れ多すぎます!」
っていうか、寝れない。マジで。
「やだ?」
「そうではなく、オレ、寝相も悪いし」
「襲ったりしないから、安心して」
「~~っ!」
顔がカッと熱くなる。
そういう冗談は、心臓に悪いんだよな。
ただでさえ、風呂上がりで濡れた髪に、ドキドキしっぱなしなのに。
こんなの、ファンが見たら悶絶だよ。
「ここで、暮らす条件に加えるか」
「え?」
「俺のベッドで寝ること」
「――!」
いたずらっ子な笑顔。
「わかった?」
「……はい」
なんて、ずるい笑顔なんだ、もう!




