【第6話 牙の余波】
ある日の早朝、デインラム領主の館の扉を、慌ただしく叩く者がいた。
村人「旦那様!旦那様―ッ!」
ファーボ「チャイムがあるでしょう。何事です?」
ファーボが扉を開く。
遅れてロルダンが現れる。
ロルダン「旦那様ではなく領主様だ。それで?」
村人「ロブローに賊が出た!奴ら、俺たちの村で略奪を…!」
ロルダン「なに?…ロブローか。」
ロルダン「…やはり、あの近辺に拠点を移した賊の話は本当だったか。」
ロルダン「おい、ガルド、テス!仕事だ!」
村人「警備隊が対応に当たってくれていますが、今頃どうなっているか…!」
ロルダン「落ち着け。数は?」
村人「10人以上はいました!奴ら、武器を持っていて…」
ガルド「旦那!どこだ!?」
ロルダン「旦那ではない!ロブローだ!」
ガルド「東か!数十分で着くな。…ギャヴ、行くぞ!」
ガルドは愛馬ギャヴに慣れた様子で飛び乗る。
ロルダン「テス!…ジザは?」
テス「起こしてきた!浮板で行く!」
ロルダン「早くしろ、ジザ!」
ジザ「ああ、もう!わかっているってば!」
ロルダン「おい、レド。お前は何をやっている?」
レド「僕も行きます。…行かせてください。」
ロルダン「自分の立場をわかっているのか?」
レド「賊は10人以上いるんでしょう?…数は多い方がいい。」
ロルダン「聞いていたのか。」
ジザ「…。」
ロルダン「民には代えられんか。…よし、行け。」
レド「…ありがとうございます!旦那様。」
ロルダン「領主様だ!予備の浮板を使え!」
ガルドは馬で一番に駆ける。
続いて、テス、ジザ、そしてレドたちは、 “ヴァイラ”の文律が刻まれた浮板が低空飛行で推進する。雑木林を抜けていく。
ガルド「おいっ!坊主!」
レド「はい!」
ガルド「無茶するなよ!文律師は、オレたちの後方支援でいい!」
レド「前衛は、あなただけになりますよ?」
ガルド「へっ、うまくやるさ!」
そして、ロブローの村に辿り着く一行。
数人の賊が民家の中で物色している。少し距離のある所で下馬したガルドは、素早い動きで民家を覗く。
賊A「けっ、この家は湿気てやがるぜ。」
賊B「それにしても、キールバン地方と違って、ここらは警備がザルだ。こうも簡単に奪えるとはな。」
ガルド「順調のようだな。」
賊A「なっ…!」
ガルドは一人の賊を素早く切り伏せた。
二人目の賊が防御で前に突き出した剣を、勢いよくなぎ払った。
賊B「い、いつの間に・・・!」
ガルド「この間、お前らの拠点を見つけられなかったからな・・・。これは、オレの責任だ。」
ガルドは容赦なく、胸に剣を突き立てた。
ガルド「…こっちは片付いた。テス、向こうだ。」
テス「ああ。あそこに3人いる。こちらに気付いたな。」
ガルド「囮になる。隙を突け。」
テス「ああ。」
賊C「てめぇら、何しやがった!?」
ガルド「こっちの台詞だ。お前ら、デインラムでぬくぬく暮らせると思うなよ。」
賊D「へっ!貴様ら、田舎の用心棒など・・・」
賊E「ぐぁっ!」
賊D「なっ、なに!?…弓兵、どこだ!?」
藪の中に潜伏したテスの矢が精密に敵へ直撃した。
テス「一人目…。」
ガルド「よそ見するなよ。こらっ!」
賊D「ぐっ!」
賊C「や、やばい!」
賊の一人が逃亡する。
ガルド「逃がすか!」
テス「頭を下げろ、ガルド!」
テスの矢が背中を向けた賊に命中する。
賊C「どぁ!」
ガルド「…さて、あとは…。あっちか!」
ガルド「おい!そっち行ったぞ!」
後方から村に入っていたジザとレドの前に5人ほどのグループが向かってくる。
賊F「こっちは文律使いとガキだ!押し通るぞ!」
ジザ「舐められたものだわ!」
ジザが左手を前に構える。人差し指に刻まれた古言語が、手袋越しに鈍く光る。
ジザ「…“エンボル”!」
ジザの左手から光の弾が出現。
次の瞬間には、風を切る音と共に賊の一人に命中する。
光の弾は、敵の胸部に着弾すると同時に破裂音を起こす。男は前のめりで倒れ込む。
賊G「やはり、文律使いか!ならば、接近戦には弱い!かかれっ!」
賊たちがジザへと距離を詰める。
ガルド「間に合わん!ジザ、逃げろ!」
テス「(敵とジザが被る…!これでは、撃てない!)」
ジザ「舐めるな!」
レド「!」
ジザは即座にエンボルを生成して、もう一人を攻撃する。
賊G「ぎゃぁ!」
レド「(発動時間が速い)」
ジザ「おい!手伝え!」
残りの賊の三人は、もうジザの目の前だった。
レド「……“エンボル・レクサ”。」
一瞬、空気が張り詰めた。
レドはジザの背後から飛び出し、左手を突き出す。
手先から三つの光弾が生まれる。
それらは互いに軌道を食い合うように交差しながら、敵目がけて襲い掛かる。
敵に着弾すると同時に、爆風が巻き起こる。
砂塵の中で、賊たちは倒れている。
ジザ「……は?」
ジザ「…今の、何?」
レド「…危なかった。」
ガルド「…おいおい、なんだ、今のは…。」
テス「……規格外だな。」
ジザ「…はぁ。」
ガルド「息のある者を捕縛するぞ、テス。」
テス「ああ。」
賊たちは縛られて、太い幹につながれた。
ジザ「…あのー、レドさん。」
レド「はい。」
ジザ「エンボル…ですか、さっきのは?」
レド「…はい?」
ジザ「普通、あんなに出ないんですが?」
レド「…そうですか?」
ジザ「あと、爆発が起こったように見えたんですが。」
レド「ああ。それは混ぜてますから…あの、よろしければ教えます…か…?」
レドはジザの表情を見ると、語尾はかすんでいった。
ジザ「結構です!意味わかんない!」
テス「ジザ!村長を探してくれ。こいつらを連行するから。」
ジザ「はーい。」
ガルド「あんたら、キールバンから流れてきたな?」
賊D「…。」
ガルド「黙秘か。それもいい。…オレの楽しみが増えるからな。」
賊D「…っ!」
テス「悪趣味。」
ガルド「冗談さ。…どこの者だ?素直に答えれば、ここで命は取らんぞ。」
賊D「…ケルヴェルアだ。」
ガルド「やはり、キールバン地方から北上してきたか。」
レド「…もしかして、“ダイガナの牙”の影響ですか?」
テス「……。」
ガルド「…そうだろうな。南方の賊は、牙によって駆逐されるか、吸収されている。」
レド「近年、その力は増していて、すでに一領土の戦力なんて遥かに上回っているって…。」
ジザ「ちょっと、レド。こっち来て!」
レド「あっ、はい?なんでしょうか。」
ジザはレドの耳元に顔を近づける。
ジザ「…テスの前で、“ダイガナの牙”の話は控えて。」
レド「?」
ジザ「…あの子の姉、牙の幹部なの。」
レド「…え?」
ジザ「もちろん、あの子には無関係だけどね。…わかった?余計な話は控えて。」
レド「…はい。すいません。」
ジザ「わかったなら、よろしい。…さて、ぼーっとしてないで、生存者の確認よ!」
レド「…はい!」
続




