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【第5話 文院】

 王都エストルドからほど近い丘の上に、仰々しく建っているのが本院本部だ。

 中年の女性が長い回廊の突き当りの扉をノックする。


女「…失礼いたします。」

男の声「入れ。」

女「ガナック様。…この度の執筆官の就任、誠におめでとうございます。」

ガナック「ドレヴァか。…堅苦しい社交辞令はよい。要件は何だ?」

ドレヴァ「先日のレドの件でございますが、無事に片付きましたことをご報告いたします。」

ガナック「……報告先が間違っているのではないか?私ではなく、セヴァルド殿であろう?」

ドレヴァ「どちらも、私の上官でございます。」


ガナック「……レドか。」


ガナック「…赤子の奴を、お前が拾ったと聞いたが?…さぞ、苦悩があっただろう。」

ドレヴァ「…奴は、稀代の使い手になるべく、惜しみのない教育を施しました。」


ドレヴァ「…それを、仇で返したのがレドです。私が、どれほどの労力をかけたか…。」

ガナック「…。」

ドレヴァ「あの子は、完璧だったんです。」


ドレヴァ「私の作品として。」


ドレヴァ「……壊れるまでは。」


ガナック「……奴の最期は?」

ドレヴァ「…ラグナスとミルザの奇襲で仕留めました。…もちろん、骸府の姿も確認しております。」

ガナック「……そうか。」


ガナック「…今日は疲れている。下がってよい。」

ドレヴァ「…はい。失礼いたしました。」


 ドレヴァが部屋を出る。

 ガナックは、窓辺から眼下に広がる王都の様子を眺める。


ガナック「……骸府も確認された、か。」


ガナック「…死んだのか、レド?」


ガナック「……惜しいな。」


 部屋を出たドレヴァは、長い廊下の先の別室に入る。


ドレヴァ「…セヴァルド様。ガナックにも、報告をしておきました。」

セヴァルド「…反応は?」

ドレヴァ「顔色一つ変えず、ただ聞いておりました。」


セヴァルド「それで…レドが、“持ち出したことになっている”件だ。」

ドレヴァ「…はい。」

セヴァルド「“禁律”の持ち出しは、許されざる行為。」

ドレヴァ「…紙は見つかっておりません。」


ドレヴァ「…妙な話でございますね。」

セヴァルド「…そういうことにしておけ。」


セヴァルド「…あの女…ヴェシュラと言ったか。」

ドレヴァ「…はい。ヴェシュラ・ジルクウェイですね。」

セヴァルド「…あれを本部へ呼び戻したと聞く。」

ドレヴァ「そのようです。」


セヴァルド「ガナック…。一体、何を企んでいる…?」

ドレヴァ「…レドとは違い、完成された文律師ですが…。」

セヴァルド「引き続き、目を光らせておけ。」

ドレヴァ「…はい。」


 ――数日後、デインラム領。

 表の庭でレドとジザの姿があった。


レド「…そうです。そのまま、“カナエ”を維持してください。」

ジザ「!…こ、こう?」

レド「そのままです。…もう一度、“カナエ”で集束させてください。」

ジザ「…!」

レド「綺麗な“エンボル”ですね。」

ジザ「!…っ」


 ジザの頭上で、光の弾が飛散する。


ジザ「…はぁ、できないわよ。そんなこと。」


ジザ「…それに何なのよ、『綺麗なエンボル』って。風情があるみたいに。」

レド「惜しかったと思います。」

ジザ「…ちょっとフラフラするわ。…休みましょう。」

レド「…そうですね。」


ジザ「あなた、指文律…何が使えるのよ?」

レド「え?…それは…。」

ジザ「あはは、知ってるわよ。それをわざわざ明かす文律師なんて居ないわ。」

レド「えっと、エンボルと…。」

ジザ「いや、言わなくていいから!」


ジザ「…冗談通じないんだから。」

レド「…すみません。」

ジザ「いちいち謝らないでよ。」


ジザ「…あなた、自分の才能に自覚がないのよ。」

レド「いや、そんなことは」

ジザ「ある!」

レド「…すみません。」


ジザ「…私はね、これでもカザーナ分校では優秀な方だったのよ。…大体、いつも2番か3番だった。」

レド「…。」

ジザ「…首席の人は、あなたみたいに自覚のないタイプだったわ。…少なくとも、そう見えた。」

レド「でも、僕は本当なんです。…よく基礎文律を暴発させてしまって、怒られました。」

ジザ「ふーん。…そうかしら。」

レド「…そうなんです。」


レド「…とても優秀な使い手なら、いました。…ヴェシュラって人です。」

ジザ「へえ。…どういう人なの?」

レド「その人は、ずっと辺境勤務でしたから、あまり面識はありませんでしたが…。」


レド「基礎文律も、応用文律も…全ての精度で、僕を含めて他を圧倒していました。」

ジザ「上には上がいるのかしらね…。気が滅入る話。」


レド「…あと、ある意味で、ガナックですかね。」

ジザ「ガナック?」


ジザ「…って、あの最年少で執筆官になった、あの?」

レド「…はい。あの人は、なんていうか…。小さい頃から達観しているようでした。」


レド「頭も良くて、大人たちに気に入られるのがうまくて、…まるで、僕とは正反対の存在だった。」

ジザ「そりゃ、執筆官に任命されるくらいだから、さぞ優秀でしょうね。」

レド「…文律自体の実力は、下から数えた方が早かったんです。」

ジザ「え?」

レド「あいつは…それを補って余りある、“別の強さ”を持っているんだ…。」


続く


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