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【第51話 選択】

 セヴァルドは顔面蒼白だった。

 禁律の代償かもしれない。


セヴァルド「…ガナック…」


 ガナックの姿があった。

 ゆっくりとした足取りで、階段を上った。


ゾラル「立っているのも辛かろう、セヴァルド。」


セヴァルド「…いえ……」


ガナック「…セヴァルド、最後の忠告だ。…そこをどけ。」


セヴァルド「……独りで何ができよう。」


ガナック「……“禁律”は、なにもお前たちの専売特許ではない。」


 ガナックはポケットから羊皮紙を取り出す。


セヴァルド「!……」


ゾラル「…貴様、重大な禁忌を冒しているのを…」


ガナック「貴様の言えたことか…!」


 羊皮紙を広げる。


ガナック「…それとも、ここで共に朽ち果てるか?」


セヴァルド「やめろ…!」


 そこに居た三人は、奥で鈍い音を聞いた。


 ――それは、“原基”の方向だった。


 静寂。


 セヴァルドは、ガナックに注意しつつも、奥の階段を数歩上がった。


セヴァルド「!」


 そこには、力尽きて倒れている青年がいた。

 おそらく、原基の上にある崖から落ちてきたのか、

 原基の黒い幹に血が擦り付いた跡と、周辺の床にも点々と広がっていた。


セヴァルド「ゾラル様!……レドがいます。」


ゾラル「なに…?」


ガナック「…!」


 レドは、辛うじて体を起こす。


 ゾラルがセヴァルドの後をつけて、

 その黒い“骸管理具”を杖代わりに、重い足取りで上がっていく。


レド「……ッ。」


 ガナックも静かに彼らの後を追う。


ゾラル「……レド。ちょうどよい……」


レド「……?」


ゾラル「…お前の力は、単なる燃料にするのは惜しい……」


セヴァルド「!…ゾラル様、何を……?」


ゾラル「……お前の“能力”を貰うぞ。」


レド「!……」


 その時だった。

 ゾラルの後方から飛んできた光弾が、彼を弾き飛ばした。


セヴァルド「ゾラル様ッ!」


ゾラル「ごほっ…ごほっ…!」


 ゾラルは、堪らずに転倒すると、手にしていた黒い杖が、下へと滑り落ちていった。

 セヴァルドが、その発信源へ振り向く。


セヴァルド「…ガナック…!貴様、何のつもりだ…!」


 セヴァルドがゾラルに近寄り、腰を下ろす。


ガナック「…隙を見せた方が悪い。」


レド「…ガナック。」


ガナック「…お前を庇おうとしたのではない。」


レド「……知っているさ…」


ガナック「…原基を止める。」


レド「……させない…」


ガナック「なぜだ?…お前も知っているだろう。」


レド「…」


ガナック「……お前にも、ご高説を賜ってやろうか?」


レド「…これを止めれば、もっと多くの人が苦しむ。」


ガナック「それでは、世界は変わらない。」


レド「……そんなことで人は変わらない。」


ガナック「…何を言う。今が、まさに革新の時だ。」


レド「…独りよがりだ。」


ガナック「…少し見ぬ間に、ずいぶんと頑なになったな。」


ガナック「……しかし、甘いな。お前の言っていることは、ただの綺麗事だ。」


レド「違う。」


ガナック「ならば…なんだ?」


レド「…これを全て知らしめる。」


ガナック「…なに?」


レド「……隠すから腐るんだ。」


ガナック「……」


レド「…全部、晒す。」


レド「…それで、原基を使うかどうか…その先、人々が選択すればいい。」


ガナック「……責任転嫁だな。」


ガナック「…うまく行くと思うのか?それで。」


レド「…わからない。」


ガナック「……ふざけるな。」


 ガナックが、もう一歩、階段を上る。


ガナック「……先人がなぜ、この“遺構”を残したのか…。思い巡らすことしかできない。」


ガナック「…しかし、この社会はこの“遺構”に依存し、そして根まで腐敗している。」


ガナック「……こうも考えたことは無いか。」


レド「…」


ガナック「…原基は、いつまで持つんだ?」


レド「!……」


ガナック「それは、ルンド・バルゴアさえ分からないだろう。」


ガナック「…いずれ、我々は“遺構”から巣立たなければならない。」


レド「お前のやり方は急ぎ過ぎている。」


レド「…文律に頼ることでしか生きていけない大勢の人たちは、どうするつもりだ。」


ガナック「…誰かが、いずれ決断しなければならない。」


ガナック「だが、それをする者がいなければ、オレがする。」


ガナック「…それとも、いずれ来るであろう誰かを待てとでも言うのか。」


レド「……ガナック、お前には賛成できない。」


ガナック「…ならば、レド。」


ガナック「……止められるなら、やってみろ…!」


レド「やめろッ!ガナック!!」


ガナック「…“発現”。」



 ガナックの周囲の空気が淀む。



セヴァルド「!」

ゾラル「いかん…退避する…ッ!」


 それは、まさに破壊に特化した衝撃波だった。

 ガナックの左手の前で急速に集められた粒子が、一瞬にして膨張した。


レド「“ランバー”!」


 レドは、原基の前に立ち上がり、防御を展開した。

 その凄まじい勢いに、同時展開の防壁が次々とひび割れ、砕け散っていく。


レド「…く……ッ!」


 レドの視界の淵に、誰かの左手が映り込む。

 それを気にしている余裕すら無かった。


 ――静寂。


 禁律の衝撃波が収まる。


 原基の“枝”がいくつか割れたように床に落ちて砕ける音が響く。


 レドは、堪らずに膝から崩れ落ちる。

 息が上がる。


 ふと左の気配に目を向ける。


ガナック「……ヴェシュラ……!」


ヴェシュラ「……」


レド「!……」


ガナック「…なぜ止める。」


ヴェシュラ「……」


ヴェシュラ「…貴方に、それ以上の罪は…背負い切れない……」


ガナック「!………」


レド「……ヴェシュラ…」


ヴェシュラ「…これを破壊してしまえば……あなたは、もう…」


ガナック「……馬鹿なことを…!」


レド「………」


 断崖が崩れ落ちる。

 生きている者も、死んでいる者も飲み込んで。


 ジラ島の外観から、その原基の姿が浮かび上がる。

 それは、岸に居た者たちの目に留まるのは、容易かった。


ファブ「!……」

リュエラ「…あ、あれは何…?」


ライネス「…?」


 ライネスがそれとは逆方向の、海原へ視線を向ける。


ライネス「ちょっと待て。あれは……!」




 ――。


 セヴァルドとゾラルは、間一髪で衝撃波から逃れ、最下層へと逃げ延びていた。


 原基の最上階には、レド、ガナック、ヴェシュラ――。


ガナック「……」


 ガナックは、静かに、

 そして、力が抜けたように、そのまま佇んでいた。




 島の入り口では、それを知らぬ者たちが、

 最後の小競り合いをしていたが、

 ある掛け声に一斉に手が止まった。


「王府軍の増援だ!」


「逃げろ!」


ナイラ「!……なに?」


ガルド「はぁ…はぁ……」


テス「……あれは…一体何隻あるんだ…?」




 ――。


ガナック「……」


レド「…ガナック。」


ガナック「…」


レド「……ここで、死なせない。」


ガナック「……」


レド「…生きて、この先を見届けるんだ。」


ガナック「……うまく、行くと思うのか。」


レド「…わからない。でも――」


ガナック「……」


レド「……ここで、終わらせない。」


ガナック「……そうか。」


ヴェシュラ「……」


レド「……まだ終わっていない。」


続く


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