【最終話 先へ】
それは、戦いの終わりに訪れるには、
あまりにも過剰な戦力だった。
八隻からなる王府軍の“本体”とも呼べる大艦隊は、
ジラ島へ上陸すると、整然と列を作って深部へと進み始めた。
“牙”の残党たちは、一斉に裏側の岸から脱出を図る。
テス「…ナイラ!」
ナイラ「……この勝負、お預けだな。」
テス「……」
ナイラ「…どうやら、ガナックは失敗したようだ。」
ガルド「……」
ナイラ「だが…これで終わりじゃない。」
ナイラ「…文院が腐敗している限り、我々は剣を抜く。」
テス「…これ以上、罪を重ねるな…!」
ナイラ「…“罪人”を殺すことが“罪”になるのか?」
ナイラ「それとも…神の審判でも下されるのを待てというのか?」
ナイラ「……奴らは、必ず“ツケ”を払うことになる。」
テス「……」
ナイラは、残党たちと共に、茂みの中へと去っていった。
テス「……」
ガルド「…あのガキ、無事か?」
テス「…探しに行こう。」
ガルド「…ああ。」
王府軍「武器を捨てろ!不審な動きを見せれば、即攻撃する!」
王府軍の先遣隊が原基の間に到着する。
セヴァルド「……」
ゾラル「…セヴァルド、私は裏から行く。あとは頼む。」
セヴァルド「……はっ。」
「そこにいるのは、執筆官殿か?」
行列の中から声がする。
ゾラル「!……」
ウィガロ「…それと、そこの老人にも話がある。」
ゾラル「(国王…!)」
セヴァルド「…はっ。」
奥へ進んでいった王府軍に連れられ、
レド、ガナック、ヴェシュラが階段から降りてくる。
ガナック「!……陛下。」
ウィガロ「…ガナック。」
ウィガロ「……お前を過信していたようだ。」
ガナック「……」
ウィガロ「…まさか、このような反乱を起こすとは…」
ウィガロ「…償ってもらう。」
ガナック「……」
ウィガロ「生き残りの文院の者たちよ、聞け!」
ウィガロの声が、荒んだ戦場に響き渡る。
ウィガロ「これより、王国がここを統括する。我々の指示に従うのだ!」
ゾラル「!……」
セヴァルド「……」
ウィガロ「…さて、異論は無いかな?老人。」
ゾラル「……」
ウィガロ「…執筆官殿も、どうだ。」
セヴァルド「……王よ。それで管理できるとお思いか。」
ウィガロは少し間を置いた。
ウィガロ「…管理できるとは思っておらん。」
ウィガロ「だが、それでも手を置く者は必要だ。」
ウィガロ「…それが、私の役目だ。」
セヴァルド「……」
ウィガロ「…先ほどの遠くから見えた爆発……“禁律”だろう。」
セヴァルド「……」
ウィガロ「その力を秘匿し、独占し、利用する…」
ウィガロ「……文院は、力を持ち過ぎた。」
ウィガロ「そうなった原因は、我々王宮にもあろう。」
ウィガロ「…互いに精進せねばならんな。」
セヴァルドは、ただ沈黙を貫くしかなかった。
しばらくの後。
その大艦隊は、再びエストルドへ向けて出発した。
――数日後。
デインラム、領主の館。
ロルダン「…戻ったか。」
ロルダンの言葉は、いつも通りだった。
だが、いつもよりも落ち着いた印象を与えた。
馬車から降りる傷ついた者たち。
ガルド「いててて…もうちょっと慎重に布を巻いてくれよ。」
テス「黙っていろ。乱暴に動くからだ。」
ロルダン「…生きていたか。」
ガルド「…おう。」
ロルダン「……レドも。」
レド「…はい。」
テス「…無事、連れて帰ってきた。」
ロルダン「有言実行、さすがだな。」
リュエラ「旦那様!師匠、すごかったんですよ!」
ロルダン「旦那様ではない。」
リュエラ「それはもう、すごい“エンボル”で…」
ロルダン「…ほう。何か気に障ることでもあったのか?」
ジザ「…こ、このオヤジ!」
テス「おい、領主に向かってそれは無いぞ。」
ガルド「そうだそうだ。」
ジザ「アンタが言えたことか!?」
ガルド「ちょっとタンマ。今は無理!…痛ッ!」
レド「…ありがとうございます。…ファブさん、ライネスさん…それにユリックも。」
ライネス「…力添えできたこと…ユリック本人が一番喜んでいるでしょう。」
ユリック「……」
その顔は、どこか安堵を浮かべているようにも見えた。
ファブ「……面白いものを見ることができた。こちらこそ、感謝する。」
レド「…面白い…?」
ファブ「穿った見方をしないでくれ。今のは言葉の綾だ。」
ファブは、少し上を見た。
ファブ「世界は変わらん。…だが、人は変わる。」
レド「……」
ファブ「…そうだろう、レド。」
レド「…そうかも、しれませんね。」
そこへガルドが襲い掛かって、レドを下敷きにする。
ガルド「おい!レド!助けろ!… “禁律”だ!禁律をアイツにぶち込めッ!」
レド「えっ!?」
ジザ「待たんか、馬鹿ども!」
レド「オレは、何も…!つぶれる…!」
――。
少し経って、ファブは静かに谷へと帰っていった。
ライネスとユリックも、彼らと別れを告げた。
原基は、王宮の管理下に置かれたらしい。
そもそも、原基が何なのかも、多くの人は分かっていないだろう。
――ある日。
レドが、だれも居ない庭で、静かに空を見上げている。
レド「……行くか。」
『律の遺構』第一部 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
これで第一部の「ガナックの反乱」は終わりとなります。
次回作の予定もありますので、ぜひ読んでいただけると幸いです。




