【第49話 力の衝突】
――波音が、入り組んだ岩壁に跳ね返り、複雑な音が反響する。
ヴェシュラ「…良いのですか、ガナック様。」
ガナック「…?」
ヴェシュラ「……彼を、ここで殺しても。」
ガナック「……」
レド「……」
ガナック「…大局を見ろ。原基が最優先だ。」
ガナック「しかし、その妨害をするのなら……」
ガナック「――殺せ。」
レド「!……」
ヴェシュラ「…そういうことだ。ここで、お前と刺し違――」
レドの文律が発動する。
いくつものエンボルがヴェシュラへ襲い掛かる。
爆風。
ヴェシュラは文律により、上空へ跳躍し、回避する。
ヴェシュラ「…妨害と見なした。」
レド「……」
レドは、“ファダン”で崖の側面を反発しながら、ヴェシュラとの距離を詰める。
ヴェシュラ「……“エンボル”。」
レド「!」
それは、もはや普遍的な基礎文律などではなかった。
巨大な光弾が脈打つように、そこにはあった。
――大爆発。
レドの姿が一瞬にして、爆風の中へと消えた。
ガルド「あいつ…!」
ガルドは上方の爆発を脇目に、奥へと走っていく。
――爆風の中。
ヴェシュラ「!」
レド「……」
ヴェシュラ「…(防いだ…!)」
戦いは前線に戻る。
ナイラ「今のうちだ!攻めろ!」
その光景に支配されていた空間に、声が鳴る。
“牙”は再び活気づいて、敵を押し始める。
「姉さん!」
ナイラ「!?」
ナイラは、周囲を見渡す。
そして、視線は一か所に絞られる。
ナイラ「……テス。」
崖上に、テスの姿。
テス「……。」
ナイラ「…また、邪魔をしに来たのか?」
「…お前に聞きたいことがある。」
ナイラ「…?」
ナイラの後方から男の声がする。
ガルド「……オレがここへ来た目的だ。」
ナイラ「…テスの仲間か…。」
牙の戦士「なんだ、お前?…王府軍でも無さそうだが…」
ナイラ「…いい。」
ナイラが手下を制止する。
ナイラ「……何の用だ?」
ガルド「…お前らが、キーダを襲撃した…もう1年以上も前だ。」
ナイラ「……それが、なんだ?」
ガルド「…お前らは、その時も文院と手を組み、分校を襲った。」
ガルド「…なぜ、文院などに手を貸す?」
ナイラ「……そんなことを、貴様に話すと思うか?」
ガルド「……」
ナイラ「…いや、この世界の変わり目に、ひとつ教えてやろう。」
ナイラ「生きるためだ。」
ナイラ「…思想だけでは生きてはいけない。」
ガルド「…」
ナイラ「……だが、その思想を忘れもしない。我々は利用したのだ…文院をな。」
ナイラ「…奴らは、私たちを利用していると思っているだろうがな。」
ガルド「……なるほど。あいつは、こんなことの為に犠牲になったのか…」
ナイラ「…弔い合戦か?…我々か、それとも文院か?」
ガルド「…いや、ここへ来たのは……」
ガルド「…あの馬鹿を生きたまま、連れ帰るためだ。」
ナイラ「…あの小僧か?」
ガルド「……ああ。」
ナイラ「…しかし、好き勝手に動かれては困る。」
ガルド「……」
ナイラ「我々の目的は、ただ一つだ。」
ナイラ「……お前ら。その男を排除しろ。自由にさせておくと危険だ。」
牙の戦士「はっ!」
テス「ガルド…!」
ガルド「……」
ガルドは静かに剣を抜いた。
主戦場から少し離れた崖の中腹で、
二人の文律師が牙を剥いていた。
互いの行動を先読みした光弾の応酬、
ヴェシュラは威力で、レドは手数で攻め立てた。
ヴェシュラ「“ツェアー”!」
レド「――ッ!」
レドが着地したと同時に、足元の脆くなった岩盤を破壊した。
そのまま体勢を崩して、下へと落下する。
ヴェシュラが左手に込める。
ヴェシュラ「――“ドライン”!」
膨れ上がった禍々しい炎弾が、レドに向かって撃ち込まれる。
レド「“ランバー、ヴァルト、カナエ”…“ファダン”!」
ヴェシュラ「!!」
落下するレドの目前で、その炎弾は徐々に減速して、
凄まじい速度を上げてヴェシュラへと跳ね返っていく。
ヴェシュラ「(――間に合わないッ)」
彼女が立っていた崖上一帯が轟音と共に崩れ去る。
レドは崖に叩きつけられ、そのまま転がり落ちた。
続く




