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【第47話 結集】

 時は遡ること、半日前。

 朝日がまだ稜線に隠れて、黎明とした頃合い。


 ローダ地方パルカテール領プルアの町。

 皆との小舟に乗り込んだ数人の姿があった。


ガルド「もう一度聞くが、本当なんだろうな?…じいさん。」

ファブ「ああ。…西に大きな“力”を感じる。今もだ。」

リュエラ「早く行きましょうよ。」

テス「…そうだが、あなた達も行く必要があるのか?」

ライネス「…我々は、君たちを下ろしたら近くの沖合で待機する。」


ライネス「帰りの足が無ければならんだろう?」

テス「…それは、助かるが…ユリックまで?」

ライネス「……彼の意思だ。尊重する。」

ユリック「……」


ファブ「彼の“力”は特殊だ。周りの文律に影響を与える。原基と共鳴しているのかもしれん。」

ガルド「それは…確かに見たが…」


ファブ「船は、私とライネス殿が“トーリエ”で加速させる。」


ファブ「君たちは、文律を温存したまえ。」

ジザ「…わかりました。」

ガルド「じゃあ、行くぞ。」




 時は現在に戻る。

 レドは、島を囲う巨大な障壁の周りを旋回し、

 障壁が届いていない猫の額ほどの小さな陸地に着地した。


レド「…(これが、ヴェシュラさんの文律なのか……?)」


 その障壁の向こう。

 姿は捉えられないが、その崖の向こうでは戦の喧騒がこだましている。


レド「(だけど…これは…)」


レド「(こんな出力……おかしい。)」


 レドは、力を込めたエンボルを障壁に向かって叩き込む。

 その厚い壁の途中で光弾は減衰して、散乱していった。


レド「!……無理だ、壊せない…」


レド「…ほかの方法を……!」


 焦燥感に駆り立てられる。

 突破口は、あるのか――。




 “壁”の中――。

 ジラ島内部では、連合軍と“ダイガナの牙”が熾烈な争いを繰り広げている。

 前線より少し後方に、ヴェシュラが今なお文律を発動し続けていた。


ガナック「…まだ、持つか?」

ヴェシュラ「……はい。」


ガナック「……さては、来ているな。」

ヴェシュラ「…気付いておられたのですか?」


ガナック「…たった今だ。」


ヴェシュラ「…南側の方で、外部から障壁を攻撃しているようですが…」


ガナック「……壊せまい。」


ヴェシュラ「……そのようです。」


ガナック「あいつは…文律自体の出力は並だ。」


ヴェシュラ「…教えてください。」


ガナック「…?」


ヴェシュラ「…それでは、なぜ彼が文院内で“異才”と云われるかを。」


ヴェシュラ「……私は、彼をよく知りません。…ましてや、戦っている姿など。」


ガナック「……原基風に言うとな…」


ガナック「“並列処理”ってやつさ。」


ヴェシュラ「…並列処理…?…文律の同時発動ですか?」


ガナック「……あいつはな。」


ガナック「一度に、いくつも扱える。」


ヴェシュラ「……!」


ガナック「優れた文律師でも2~3個が関の山だ。」


ガナック「…だが、あいつは……いくつできるのだろうな。」


ヴェシュラ「……」


ガナック「だが、それを見ることは無いだろう。」


ガナック「…この障壁が解かれた頃には、全てが終わっている…。」




 ――戦いの前線。


ナイラ「よし!そのまま押し込め!」

牙の戦士「…優勢ですな。」

ナイラ「無論だ。」


ナイラ「奴らは、今日という都合の為に寄せ集まっただけの烏合の衆だ。」


ミルザ「“ドライン”!」


 敵味方乱れる乱戦の中、巨大な炎弾が飛び込む。


兵士「こちらに当たったら、どうするつもりだ!?」

ミルザ「黙れ!これは戦いだ!」


ナイラ「文律師を優先的に狙え!接近戦に持ち込めッ!」


 “牙”の勢いが一段階上がる。

 数でも優勢である彼らは、咆哮のような雄叫びを上げて突進を開始。

 王府軍の前衛を勢いのまま突破し、後方の文律軍へ襲い掛かる。

 平地の少ない細い道で、彼らの逃げ場は少なかった。

 パニックは伝染し、一気に前線が崩れ落ちる。




 ――再び、障壁の外。


レド「はぁ…はぁ……」


 額からは汗がにじみ出ていた。


レド「ここまで来て……!」


 自身の無力を痛感した。

 何の為に、ここに来ているのか。

 そして、何もできず、蚊帳の外で爪弾きになっている自分を。


レド「……!」


 言葉が出なかった。


 荒くなった息だけが、繰り返し響いていた。

 波音の中に、それとは異なる音が混じっているのに気付いたのは、

 しばらく経ってからだった。


ガルド「…坊主。」

リュエラ「レドさん!」


レド「!……」


 そこには、まったく予想だにしていない光景があった。

 ――帰るべき“居場所”の人たち。


レド「み、皆さん……?どうして……」


ガルド「しんみりするのは、後だ。」

ジザ「そうよ。まずは、この馬鹿げた“ランバー”を突破する方法を…」


ライネス「よい方法はありますか、ファブ様。」

ファブ「……無いな。」

ライネス「…え?」


ファブ「……これほどのものは見たことが無い。」

ジザ「噓でしょ?…賢者様だったら……」


ファブ「…“よい方法”など無いと言っている。」

ライネス「……?」


ファブ「…これを突破するには――」


ファブ「品性の欠片も無い、力技で突破するしかない。」


ジザ「!……」

リュエラ「…こんな分厚い“ランバー”を壊せるんですか…?」


ファブ「…その為に、彼が来たのだ。…そうだろう、ユリック・ファーレイン。」


ユリック「…あっ……あっ…」


レド「ユリック!…君まで…。」


ファブ「…さあ、そこの狭い陸地に文律師たちは降りてくれるか。」


ファブ「ライネス殿、ユリックを抱えて君も降りるのだ。」

ライネス「!……は、はい。」


 レドの後方に、ジザ、リュエラ、ファブ、ライネス、ユリックが上陸する。


ファブ「やることは単純。…一点突破だ。」


ファブ「“カナエ”を使って“エンボル”をなるべく集束させる。」


リュエラ「…ちょっと待ってください。」


ファブ「…?」


リュエラ「……あそこだけ、ちょっと薄くないですか?」


ファブ「なに…?」


リュエラ「…そんな気がして…」

ジザ「…そんな風には見えないけど…」


ファブ「……確かに、そうかもしれぬ。」


ファブ「…文律が不安定になってきているのかもしれん。」


ライネス「…よく気が付いたな、リュエラ殿。」

リュエラ「…さっきから、波の返り方が違う気がして…」


ファブ「……ほう。」


ライネス「では、レド殿に撃ってもらい、我々は援護を…」

リュエラ「はい、そうしましょう!」


レド「…待ってくれ。」


ライネス「…?」

リュエラ「……ああ、そっか。レドさん、結構疲弊していますよね?」


レド「…いや、そうじゃない。」


レド「……適任がいるでしょう?」


ライネス「適任?」


レド「…デインラム屈指の“エンボル”使いが。」


ガルド「はっはっ!…確かに。」

テス「…なるほど。」


レド「…ジザさん。」


ジザ「…」


レド「お願いできますか?…あなたの“エンボル”の出力は、僕以上です。」


ファブ「…そうか。面白い。」


ジザ「…わかった。」


ジザ「……やるわ。」


ガルド「ぶちかましてやれよ、ジザ!」


ジザ「…言われなくても…!」


 ジザは左手に集中する。


ファブ「さあ、ユリック。頼む。…我々は、ジザへ“カナエ”を。」

リュエラ「了解!」

ライネス「はい。」

レド「…やりましょう。」

ユリック「……!」


続く


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