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【第36話 再訪】

 ルガ国には冬が訪れていた。

 デインラム領には、滅多に降雪はないが、

 大蛇山脈から吹き降ろす風が人々の体の芯まで冷えさせた。


 ロルダンの館には、西の隣接領オングステートの

 領主ゴラン・オングステートと文律師キリカが訪ねていた。


ゴラン「先月のトラウダンでは、ずいぶんと助けてもらった。」

ロルダン「お互い様だ。礼など要らぬ。」

ゴラン「…おぬしの村の復興は、どうだ?」

ロルダン「カナフスの村か?…まあ、まずまずだ。」


ロルダン「…だが、家屋は直っても、人は治せん。」

ゴラン「……うむ。」


ゴラン「…“牙”の裏で、文院が糸を引いているのは、現実的な話になってきた。」

ロルダン「……何か情報筋があるのか?」

ゴラン「…ザルワ殿が、トラウダンで文院の文律師を目撃している。」


ジザ「…ザルワって、あのファブ・ザルワ?」


ロルダン「盗聴とは感心せんな。」

ジザ「やあ、キリカ。」

キリカ「相変わらずね、ジザ。」

ゴラン「おお、ジザか。…どうだ、この焼き菓子、うまいぞ。」

キリカ「それ、私が買ってきたんですけど。」


ロルダン「…それにしても、あのザルワ殿か。」

ジザ「あの戦役に、“ケルヴェルアの賢者”が参加していたなんて、知らなかったわ。」

キリカ「乱戦だったものね。…私も当時は知らなかったわ。」


キリカ「自領でも無いのに、“牙”の動きを察知して、防衛に回ってくれていたらしいの。」

ジザ「あの人、世捨て人だとばかり思っていたわ。」


ゴラン「…妙なんだ。各地の“牙”の襲撃だが…共通点がある。」

ロルダン「……奴らは、支配しない。…そうだろう?」


ゴラン「その通り。…町を荒らし、人を殺めるが、嵐のように去っていくだけだ。」

ジザ「…それ、カナフスでもトラウダンでも感じたわ。」

ロルダン「…うむ。略奪は、資金源の確保として理解できなくはないが……」


ゴラン「それにもう一つ。…必ず、文律師がいる場所しか襲撃しない。」

キリカ「…自分が閃いたように言っていますが、ザルワさんの推論です。」

ゴラン「ちっとは、カッコつけさせろ。」


ロルダン「……確かに、カナフスの村でもシモイン殿が凶刃に倒れた。」

ジザ「トラウダンも、そうね。」


ガルド「…あのユリックとかいうガキもだ。…まあ、奴はまだ生きているようだが。」


 ガルドが扉の前で、壁に肘をつけて立っている。

 盗み聞いていたようだ。


ゴラン「デインラムの教育は素晴らしいな。」

ロルダン「……はぁ。」

ガルド「オレとレドが見ている。…あれは、完全に“狙い撃ち”だ。」

ロルダン「…それを言ったら、レド自身も文院に狙われた身だからな。」

ガルド「あいつは例外だ。あのユリックってのは、特に因縁は無さそうだったぜ。」


ゴラン「そこなんだ。…文院は、意図的に文律師を狙っているようにしか見えん。」

ジザ「何のために?」

ゴラン「それが分かれば、苦労せん。」

ロルダン「…文院は“牙”を利用して、文律師の数を減らしている…。あり得るのか?」


ロルダン「これまでの行動から納得できる推理だが、目的が分からない。」

ジザ「文律師の養成機関がやることじゃないわ。…本末転倒にしか思えないけど。」

ゴラン「…実証など無理だ。」


ゴラン「これを伝えに来たのは、お互い、敵の傾向がわかっていた方が守りやすいだろ?…そういうことだ。」

ロルダン「…文律師の配置には、気を使えということか。」


ガルド「十中八九、レータを殺したのも“文院”の意向ってわけか。」

ロルダン「…そうかもしれぬな…。」


ロルダン「殴り込みに行くなどと、考えるなよ。」

ガルド「……わかってる。」




 ――ヘキラヴェレル領、王都エストルド。


 レドは、人目を避けながら細い裏路地を進んでいる。

 裏通りを抜けて、大通りを横断すると、

 決して豪華絢爛ではないが、品の良さのある邸宅が構えていた。


レド「(…もし、レグナスが報告していたら…)」


レド「(……どこかで待ち伏せされているかもしれない…)」


レド「(…だけど、ここまで来たら、行くしかない。)」



レド「……発現。」


 レドは、ファタウの構文を使い、伝達文律によって屋敷の中へ何かの信号を送った。


 しらばくすると、正面の扉から中年の男が少し扉を開けた。

 その頬には、文院の刻印がある。


レド「……ルクインさん。」

ハリート「……レド…。」


 ハリート・ルクインは、文院の古株である。

 早足で庭を通過すると門を開けた。


ハリート「……早く、中へ。」

レド「…すみません。」


 レドは、ハリートに連れられて、玄関から屋敷に入った。


レド「急に押しかけてすみません。」

ハリート「…昨日、お前からの手紙を見た。」


ハリート「…生きていたか。」

レド「…はい。」


ハリート「どうして、戻ってきた?」

レド「…ルクインさん。」


レド「…“原基”の場所は、ジラ島ですか?」


ハリート「!……」


ハリート「……なぜ、そう思う?」

レド「…文律の波が穏やかなのは、沿岸部です。」

ハリート「…?」

レド「…この国の外側は、より不安定になる。」


レド「…ならば、ルガの中心にあるのが納得できます。」

ハリート「……」


 ハリートは、廊下の方を向いて、黙り込んだ。


ハリート「…答えられない。」

レド「……」


レド「…ありがとうございます。それで十分です。」


ハリート「…レド。……首を突っ込むな。」

レド「…。」


ハリート「……お前は幸運だ。」

レド「?」


ハリート「昔のお前は、まるでドレヴァの“操り人形”だった。」


ハリート「感情表現が乏しく、依存心を利用され、奴の思うように動いていた。」


ハリート「…それが、お前だった。」


レド「…」

ハリート「…だけど、お前はその手から逃れ、生き延びることができた。」


ハリート「…お前は自由だ。……なのに、なぜ戻ってきた?」


レド「…判断するためです。」


ハリート「…判断?」


レド「…ガナックが動いている。……そんな気がしてならない。」


ハリート「…なぜ、そう思う?」


レド「…奴なら、そうするだろうって思うんです。」

ハリート「…感覚派は、変わらんな。」


レド「……確かめて、どうするか……」


レド「…それを判断するのは、僕自身だ。」


ハリート「…」


 ハリートは、再びレドの方を見る。


ハリート「…変わったな。」

レド「…いえ。」


ハリート「変わった。……まるで、別人になった。」

レド「……わかりません。」


ハリート「……私を頼ってくれるのは悪い気はしないが…何もできん。」

レド「…いえ。」


ハリート「…私は、ドレヴァの道具になっているお前が不憫だった。」

レド「…あなたの優しさは、当時の僕の救いでした。」


ハリート「優しさなど…。」


ハリート「傍観者に過ぎん。」

レド「…見守ってくれていました。」


ハリート「…お前は、文院の目が届かない場所で、平和に暮らせ。」

レド「……ある人にも同じようなことを言われました。」


ハリート「…?」


レド「……僕にも、“居場所”ができたんです。」


レド「…そこは、僕を受け入れてくれた所です。」


ハリート「…そうか。……よかったな、レド。…ならば、尚のことだ。」


レド「…だからこそ…。」

ハリート「…?」


レド「…このままでは、そこも今より厳しい状況になる。」


レド「……僕は、あの人たちを守りたいんだ。」


ハリート「……」


レド「…だけど、ガナックがそれを脅かすのなら…僕は……」

ハリート「…」


ハリート「……世界を、変えられると思っているのか?」


レド「まさか……。」


 レドは少し下を向いた。


レド「…だけど、人は変えられます。」


続く


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