【第35話 謀りごと】
――文院本部、地下室。
ガナックは、黒い歪な何かに触れる。
それは、黒い“枝”のような形状の物体だった。
その手には、羊皮紙。
古言語が独りでに浮かび上がる。
ヴェシュラ「……ガナック様。」
近くに座るヴェシュラの目の前の机には、大量の羊皮紙が積み上がっている。
ヴェシュラ「…やはり、ここでしょうね。」
ガナック「……あったか。」
ヴェシュラ「…何重にも“施錠”がされています。解析には時間が…」
ガナック「…これが証明になるとは思えんな。」
ガナック「これを一般人が見た所で、意味のない記号の羅列でしかない。」
ヴェシュラ「…そうでしょう。」
ガナック「……だが、これが元凶だ。」
ガナック「……条件が、変えられている。」
ヴェシュラ「……条件?」
ガナック「……死因の制限が、消えているはずだ。」
ガナック「…ルンド・バルゴア…。旧人の英知を我が為に貪る輩め…。」
ヴェシュラ「…」
ガナック「……これでは」
ガナック「……“いくらでも回る”。」
ヴェシュラ「……それは」
ヴェシュラの言葉が詰まる。
ヴェシュラ「…もう一つの方は、いかがされましょう。」
ガナック「……」
ヴェシュラ「…不安定化。もう少し、強めましょうか。」
ガナック「…恐ろしいことを言う。」
ガナック「……いや、まだ待て。」
ガナック「…変化は緩やかに、確実であるべきだ。」
ガナック「気付いた頃には、すべてが手遅れ…。それがいい。」
ヴェシュラ「…承知しました。」
――文院本部、2階。セヴァルドの部屋。
スーラ「…スーラ・ソルザンテ。入ります。」
セヴァルド「…動きは?」
スーラ「今月に入り、ジラ島へ二度渡航しており、申請と一致しています。」
セヴァルド「……他には?」
スーラ「……熱心に新たな構文の作成に着手しているようで…」
セヴァルド「…それでは、執筆官の業務の範疇に過ぎん。」
スーラ「申し訳ありませんが、この程度しか分かりません。」
セヴァルド「……確かに、かなりの量の校閲依頼が出ているが…」
スーラ「…セヴァルド様。…ガナック様は……いえ…」
セヴァルド「…なんだ、申せ。」
スーラ「…ガナック様に、その兆候は見られません。」
セヴァルド「…」
スーラ「…出過ぎた真似を。」
セヴァルド「……文律の不安定化が、ルンド・バルゴアの意図とは考えにくい。」
セヴァルド「…彼らに利点が無いからだ。」
スーラ「…ですが、あれは原基を回しすぎていると…?」
セヴァルド「それだけとは思えん。…奴が絡んでいるはずだ。」
スーラ「…」
セヴァルド「…必ずボロが出るはずだ。」
――エストルド城。
ファルド「陛下。」
王府官ファルドは、庭園にいるウィガロのもとを訪れていた。
ウィガロ「…ファルドか。」
ファルド「……本日、キールバンへ送った密偵が帰還しました。」
ウィガロ「…それで?」
ファルド「……武器供与の規模が、異常です」
ウィガロ「……異常?」
ファルド「……まるで、“尽きない”かのように」
ファルド「どうやら、“牙”への後ろ盾に、ルプシエ商会がいるようです。」
ウィガロ「…ほう。」
ファルド「自前の工房をいくつも構えていますし、武器供与など容易に想像はつく所ですが…」
ファルド「…その商会に資金を流す、ある資本家が浮上しました。」
ウィガロ「……つまり、直接ではないと。」
ファルド「…はい。その資本家を経由しているかもしれません。」
ウィガロ「なるほど。…手が込んでいる。」
ファルド「…彼の身辺を改める必要がありますが…」
ファルド「…文院に繋がる人物の可能性が高いかと。」
ウィガロ「…やはりな。」
ウィガロ「……おぬしの仕事ぶりには感謝する。」
ファルド「…恐悦でございます。」
ウィガロ「……切り札は、最後に使うものだ。」
続く




