【第32話 不可解】
ある日のデインラム、領主の館。
館の外で素振りをしていたガルドは、
摘みたての薬草が詰まった籠を持ったレドを見つけると捕まえた。
レド「何ですか、急に。」
ガルド「…この後、嵐になるぞ。」
レド「え…そうなんですか?」
ガルド「あれを見ろよ。」
レド「?」
レドの視線の先には、ジザとリュエラが話している。
ジザは、身振り手振りで何かを伝えているようだった。
ガルド「ジザが他人の世話を焼いているぜ…。」
レド「ああ、そういう…」
リュエラ「…こう、ですか…?」
ジザ「それじゃ、駄目。“カナエ”を使うのが早すぎる。もっと“エンボル”を安定させてから…」
レド「…本当ですね。」
ガルド「だろ?今のうちに洗濯物を取り込んでおけよ。」
玄関からロルダンが現れると、周囲を見渡す。
ロルダン「レド、そこに居たか。」
レド「どうされました?」
ロルダン「悪いが、西にある背の高い木があるだろう。倒木のおそれがある。伐木しておいてくれるか。」
レド「ああ、あれですね。了解です。」
ジザ「あっ、レド!」
レド「…はい?」
ジザ「“ザラー”で、やるでしょ?」
レド「…まあ、はい。」
ジザ「この子にも教えてあげてよ。」
レド「リュエラさんに?」
ジザ「そう。複合文律が苦手みたいなの。」
リュエラ「…お願いします。」
レド「別にいいですけど…ちょっと詰め込みすぎじゃ?」
ジザ「そんなことは無いわよね?」
リュエラ「はい!…私は大丈夫です。」
レド「……言わされてない?」
そう言ったレドは、横からの鋭い視線を感じた。
レド「…じゃ、行こうか。」
リュエラ「はい!」
レドとリュエラは、館の敷地から外れた西へ歩き出す。
リュエラ「…私がお願いしたんです。」
レド「?」
リュエラ「ジザさんに“ドライン”の使い方を教えていただいたんです。」
レド「…ああ、そうなんだ。…厳しくなかった?」
リュエラ「いえ!とっても、わかりやすかったです。」
レド「…君は、溶け込むのが早いね。」
リュエラ「そうですか?」
レド「人見知りだと思っていたけど…」
リュエラ「…最初は、誰だって緊張しますよ。」
レド「そうだね…。…この木だ。」
二人は、古い木の前に立ち止まった。
リュエラ「確かに、傾いているし危ないですね。」
レド「これが倒れたら、屋敷の塀が壊れる。」
レド「…じゃあ、うーん、まず、どうしようか…」
リュエラ「……」
レド「えーと…そうだね。……まずは…」
レド「(…人に教えたことなんて、無い……)」
リュエラ「…レドさん。」
レド「?」
リュエラ「まずは、見せてください。」
レド「…ああ、そうしよう。」
レドは左手を少しだけ前に出した。
掌を正面に向ける。
リュエラ「…“ザラー”は、基礎文律の“エンボル”と、応用文律の“ヴァルト”の複合ですよね?」
レド「そう。…だから、まずは…“エンボル”。」
レドの左手の周りの空気が揺れ動く。
掌の前に、小さな光の弾が生まれる。
レド「…次に…“ヴァルト”。」
光弾は左手に着地すると、次第に先端が刃のように伸びていく。
レド「……これが“ザラー”の原型です。」
リュエラ「…やってみます。」
リュエラは、エンボルで光弾を生成するも、その後のヴァルトでの形状保持に苦戦していた。その後も何回か行うも、やはりうまくいかず。
リュエラ「…うまく行きません。…私、“ヴァルト”が不得意みたいで…」
レド「…人によって、得意不得意はあるって話もある。」
リュエラ「…たしかに、先生にもよく言われました。生まれながらに決まっているって。」
レド「それにまだ、始めたばかりだから、きっと大丈夫。僕も、あまり“ザラー”は得意ではないし。」
リュエラ「…それで、ですか?」
レド「…うん。」
リュエラ「最後に、もう一度だけ、行きます。」
レド「うん。無理はしないで。」
リュエラは左手をもう一度、前に掲げる。
リュエラ「…“エンボル”。」
左手の周囲に円状に古言語が浮かび上がる。
――しかし、その古言語は小刻みに震えると点滅し始める。
レド「!(なんだ、この感じ…!)」
リュエラ「…な、なに…?」
レド「今すぐやめて!」
リュエラ「!…できません!」
レド「(ならば、少々強引だが…)…“ツェアー”!」
レドは、左手が重い感触を覚えた。
レド「(まずい…暴発する…!)」
レドは、すぐさまリュエラの逆方向へ左手を向けた。
放たれた文律は、近くにあった木々に強い衝撃波を与えて、
それらは木っ端微塵に吹き飛んだ。
リュエラ「きゃあ!」
レド「…ッ!!」
木々は粉々に砕け、しばらく音もなく崩れ落ちた。
レド「…はぁ…はぁ…。大丈夫?」
リュエラ「わ、私は…。レドさんは、大丈夫ですか?」
レド「…ああ…。しかし、これは……」
リュエラ「……暴発、ですか?」
レド「…ああ。」
レド「…ただの暴発じゃない。…ツェアーの構文以上の作用がある…。」
リュエラ「…え?」
レド「おかしい。…最近、おかしいんだ。」
リュエラ「あの…。私も、最近特にうまく行かなくて…。」
レド「?」
リュエラ「私はまだ未熟者なので、仕方ないことと思っていましたが…。」
レド「…やはり、そうか。」
リュエラ「…どういうことですか?」
遠くからジザが駆けつけてくる。
ジザ「リュエラの悲鳴が聞こえたけど、何かあったの?」
リュエラ「あの、大丈夫です。…文律が暴発してしまって…」
ジザ「…暴発…。まさか、レドも?」
レド「…」
レドは、何も言わずに頷いた。
レド「…これは個人の問題じゃない。」
ジザ「……オルデアの封鎖とも関係がある…?」
レド「…わかりませんが、これは異常だ。」
リュエラ「やっぱり、最近おかしいですよね。」
レド「……」
続く




