【第31話 新人】
数日後。
ロルダンは、自分の部屋に用心棒たちを集めていた。
いつになく、改まった雰囲気で、ひとつ咳払いをする。
ロルダン「ゴホン。…さて、諸君。全員いるな?」
ガルド「……何なんだ、この空気。」
ジザ「知らないわよ。」
ロルダン「私語は慎め。」
レド「…?」
テス「ロルダンさん。要件は早く済ましてくれ。水汲みの途中なんだ。」
ロルダン「まあ、待て。お前ら。…ファーボ、連れてまいれ。」
ファーボに連れられた若い女性が、緊張しながら部屋に入る。
短めの茶髪に小柄な――文律師だった。
ロルダン「近年の治安悪化で、卒業を迎えた文律師は引っ張りだこだ。」
ロルダン「我々、デインラムとしても、なんとか人材確保に全力を挙げた結果…」
ロルダン「彼女を雇うことができた。…さあ、自己紹介をしたまえ。」
若い女「…あの、リュエラ・トーレンと言います。…えっと」
ジザ「ああ、その刻印、ニュライブ分校出身ね。」
ロルダン「ジザ。話を遮るな。」
リュエラ「…あ、はい。あの…」
ガルド「ほら、萎縮しちまったじゃねえか。」
ジザ「はあ?別にしてないわよね?」
リュエラ「い、いえ…あの…」
レド「…」
テス「…」
ジザ「アンタこそ、先輩風吹かそうとしているんじゃないの?」
ガルド「うるせえな、お局様が。子分ができて嬉しいか?」
ロルダン「貴様ら!廊下に立っていろ!」
リュエラ「!…」
ロルダン「ゴホン。…そういうわけで、すまなかった。続けたまえ。」
リュエラ「あ、はい。あの…まだ、未熟な所もたくさんありますが、よろしくお願いいたします。」
ロルダン「…よし。じゃあ、他の者も紹介しなくてはな。」
ロルダン「まず、廊下に立っているあの馬鹿二人は、ガルドとジザだ。……ほれ。」
ファーボ「ファーボです。困ったことがあれば、なんでも言ってください。」
テス「テスです。よろしく。」
レド「…レドです。よろしくお願いいたします。」
ロルダン「そういうわけで、本日より彼女は館の用心棒の一人として加わることになった。」
ロルダン「おい、そこの二人。反省したなら入りたまえ。」
ジザ「……」
ガルド「……」
ロルダン「リュエラ君。ご存じの通り、デインラムは厳しい現状がある。」
リュエラ「…はい。私も生まれは同じローダ地方のネリスリン領なので…“牙”や賊の被害状況は、よくわかります。」
ロルダン「そう。その通り。よくわかるな、リュエラ君。」
ガルド「…おい、なんか甘くねえか、あのオッサン…」
ジザ「…若いからよ、きっと。」
ロルダン「もう一度、外へ出るか?お前ら。」
ガルド「いえ、何でもありません。」
ジザ「はい。聞いております。」
ロルダン「…」
ファーボ「とりあえず、堅苦しい挨拶はここまでにして、彼女には皆さんと一緒に日課をこなしてもらいましょうか。」
ロルダン「そうだな。…じゃあ、テス。一緒に連れて行ってくれ。」
テス「…はい。でも、いつも私がそういう役目の気がしてますが…」
ロルダン「当たり前だろ。周りを見てみろ。…やれそうな奴は、どこにいる?」
ガルド「…」
ジザ「…」
レド「…」
テス「…私が間違っていました。」
ロルダン「そうだろう。」
テス「じゃあ、まず水汲みを手伝ってくれ。文律は使わなくていいから。」
リュエラ「あっ、はい!」
リュエラは席を立ちあがり、レドの横を通ったとき。
彼女は、ふとレドを見た。
リュエラ「(…この空気、なに…?)」
レド「……?」
リュエラ「!……文院…?…いえ、なんか……」
レドの頬の刻印が彼女の目に留まる。
レド「あ…」
リュエラ「あ、すみません。…あの、文院の方なんですか?」
レド「いえ、今は…」
ロルダン「話せば長くなるが、彼はもう文院ではない。安心していい。」
リュエラ「…えっ、はい。…急にすみません。」
レド「いえ。」
リュエラ「(…あの雰囲気の人…今まで見たことない…。何なんだろう……。)」
――エストルド城。
ファルド「陛下。…文院の動きがわかりました。」
ウィガロ「なんだ?」
ファルド「パラキス地方、グリアヘーゼ領にある分校ファテールの“事故”は、連鎖的にオルデア全体で顕在化しており、この地区を封鎖すると…。」
ウィガロ「…オルデアの町全体を?」
ファルド「…はい。一切の出入りを禁じるとのことで、文院が半ば強制的に王府軍を退けたと。」
ウィガロ「……勝手な真似を。」
ファルド「これ以上の詳細は掴めておりません。」
ウィガロ「…中にいる者たちを、見殺しにすると?」
ファルド「……そういうことです。」
ウィガロ「地方監督に通達しろ。文院の好きにさせるな。」
ファルド「…はっ」
ファルド「…陛下。これは、あくまで噂程度のものですが…」
ウィガロ「話せ。」
ファルド「…王府軍の文律師からは、文律の暴発の報告がちらほらと上がっております。」
ウィガロ「……」
ファルド「本来、未熟な文律師に多く見られる事例ですが、熟練の者からも報告があり…」
ウィガロ「…完全構文でも?」
ファルド「はい。…紙文律、指文律いずれでも事例があります。」
ウィガロ「ファテールとの因果関係があるのか…?」
ファルド「そこは、まだ…。」
ウィガロ「断定を早まるな。報告を集めて判断する。」
ファルド「…はっ。」
ファルドは足早に部屋を出る。
ウィガロ「………。」
ウィガロ「…偶然にしては、出来すぎている……。」
続く




