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【第30話 原基】

 一週間後。

 セピウ海に浮かぶ孤島、ジラ島。

 ここは、“汚染された島”と呼ばれている。

 港の繋ぐ定期船や漁船さえもこの近海には近づかない。

 そこに、小型の船舶で静かに入島する者がいた。


文律師「ガナック様。足元に気を付けてください。」

ガナック「…ヴェシュラ、行くぞ。」

ヴェシュラ「…はい、ガナック様。」


文律師「先日、セヴァルド様もここへ。」

ガナック「そうか。仕事熱心は、褒められることだ。」

文律師「…ガナック様も。…数日置いて、また来られるとは。」

ガナック「誉め言葉と受け取ろう。…では、船を回しておいてくれ。」

文律師「…はっ。」


 そこは、無人島などではなかった。

 数人の灰色の外套を纏った者たちが、辺りを警戒している。


 ガナックとヴェシュラは、崖際に口を開けた洞窟に入っていく。


 そこを抜けると、四方を高台に囲まれた空間が広がっている。

 白い床が敷かれ、階段の先――

 そこには、不自然な黒さの“大樹”があった。

 正確には、“樹”かどうかも分からない。

 ただ、そう見える形だった。

 光を吸い込むような黒。

 生きているのか、死んでいるのかも分からない。


 ただ、そこに在るだけで、周囲の空気が歪んでいた。


ガナック「…“枝”では、閲覧しかできんからな。」


 ガナックはそう言うと、樹の“幹”にあたる部分にある古言語の刻印に手をかざす。

 古言語は、ぼんやりと光を放つと、幹は小さく脈打ったような鼓動を感じた。


ガナック「…認証完了だ。…始めろ。」


 ヴェシュラは、それに近づき、幹に手を置いた。

 彼女が持つ羊皮紙には、次々に文字が浮かび始める。


ヴェシュラ「……この層は、我々のほかにアクセスした形跡はありません。」

ガナック「…セヴァルドも気付いていないか。」


ガナック「…“異変”は気付かない程度でいい。……今はな。」

ヴェシュラ「……ですが、ルンド・バルゴアなら、いずれ気が付くのでは?」

ガナック「もちろん。…肝要なのは、“いつ気が付くか”だ。」


ヴェシュラ「……ガナック様。」

ガナック「?」

ヴェシュラ「我々は、神へ仇なす行為を行っているのでしょうか。」

ガナック「なんだ、急に。…お前が信心深いとは思わなかったが。」

ヴェシュラ「…いえ、神など信じておりません。」

ガナック「話が見えんな。」


ヴェシュラ「…これを神と呼ぶなら、人はあまりにも安いですね。」

ガナック「…まったくだ。」



 それから数日後。

 ――デインラム領、国境近く。


ガルド「…懐かしいか?」

レド「え?」

ガルド「…お前、ここらで野垂れ死にする所だったんだぜ。」

レド「あっ…そうか。」

テス「…もうじき、日が暮れる。巡回は仕舞いにしよう。」

レド「ちょっと待ってください。松明代わりに…“エンボル”。」


レドの掲げた左手から光弾は、わずかに揺らめいていた。


レド「…?」

ガルド「どうした?」

レド「……い、いえ。」

テス「文律は節約しておけ。…さすがにお前でも疲れはあるだろう。」

レド「…はい。」


レド「(…文律が安定していない…。)」


レド「おかしいな…こんなことは、今まで……」


ガルド「?…なんか言ったか、坊主。」

レド「い、いえ…」



 レドは、二人が見ていない所で、もう一度、エンボルを試みる。


 ――揺らぐ。


 ほんのわずか。

 だが、それは“誤差”では済まない違和感だった。


レド「……」


ガルド「おい、置いてくぞ。」

レド「はい、行きます。」


テス「ガルド、これ食うか?」

ガルド「おう、気が利くじゃねえか。」

テス「…ほら。」

レド「あっ、どうも。」


ガルド「そうそう。坊主、明日でいいから、じいさんの農作業手伝っておけよ。」

レド「…坊主じゃありませんよ。」

ガルド「お前、生意気になったな。」

レド「…もうすぐ27ですよ。本当の誕生日は知りませんけど。」

ガルド「……お前がテスより年上なの、なんか違えんだよなぁ。」

レド「違うとか、そういう話じゃありませんよ。」

テス「…まあ、幼い顔しているからな。レド。」

ガルド「まぁはに、ぼうじゅはぼうじゅなんほ…」

テス「口にもの入れたまま喋るな。」

ガルド「……」

レド「…子どもは、どっちだよ。」

ガルド「てめぇ…」


テス「勝手に走るな。…おーい。……はぁ。」


 三人は、干し肉を片手に領主の館へと足を進めた。


続く


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