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【第29話 異変】

 ――数日後。

 文院最高評議機関の間。

 薄暗い部屋の中央には長机が置かれている。

 それを囲むように座る老人たち――。

 いや、それは老人と呼ぶには、あまりに“若すぎており”、

 中年と呼ぶには、あまりに“老けすぎている”ように映る。


 セヴァルドは、その静まり返った部屋に入る。


ゾラル「…あのカザーナの少年、死んでおらんな?」


 開口一番にセヴァルドへ投げかけられた声は、

 深く沈んでおり床から響いているように感じた。


セヴァルド「!……は、はい。原基で確認しております。」


セヴァルド「(…原基に干渉できるのは、我々執筆官だけのはず……)」


ゾラル「……確認して、なんだ?生きているのなら――殺せ。」


セヴァルド「…し、しかし、任務を与えたオルトラとグラムは戦死しており…確認が…」

ゾラル「原基が答えだ。それ以上の確認など無い。」


 恰幅の良いゾラルの隣にいる、細身の老人が小さな声を放つ。


ンカィ「レドも、まだ死んでおらぬのか?」

セヴァルド「…申し訳ございません。手駒が不足しており……」

ゾラル「…やはり、文律師は増やさねばならんな。」


 そこへ、もう一人の男が入室する。

 ガナックだ。


ガナック「遅れて申し訳ありません。ガナック、ただいま到着いたしました。」


ゾラル「二人揃ったか。…さて、本題へ移ろう。……パラ。」


 パラと呼ばれたのは、ルンド・バルゴアの中では、比較的若く見える女性だった。


パラ「…本日、“骸府管理部”の撤廃を通達する。」

セヴァルド「!…」

ガナック「……。」


セヴァルド「し、しかし、“管理部”は…」

パラ「元々、文院の要人を失わないために作られた部署…」


パラ「だが、それが民間の手に渡ったことで、今回のように回収できない事例が増えている。」

ゾラル「……残りの“管理具”は、我々が管理する。」

セヴァルド「…しかし…」

ゾラル「…私に余計な体力を使わせるな。……これ以上、喋らせる気か?」

セヴァルド「……。」


パラ「異論は無いな?…それと失われた管理具の捜索を引き続き行うのだ。」

ガナック「…はっ。」

セヴァルド「……はっ。」


ンカィ「…それで、“牙”は使えそうか?」

ガナック「…はい。少々、躾が悪い所がありますが。」

ンカィ「はっはっは……。あのダインとか言ったか…」

ガナック「ダイン・ラドナック。首領の名でございます。」


ンカィ「そうそう…。奴の真の狙いは何だ?」


ガナック「…利用できるほどには、憎んでいるようです。」


ンカィ「そうか。それは、“使えるな”…。」

パラ「その憎悪をうまく利用しろ。奴らは、喜んで文律師を殺す。」

ガナック「…はっ。」


ゾラル「しかし、ガナック。…そなたも“牙”をうまく懐柔したようだな。」

ガナック「…光栄にございます。」

セヴァルド「……。」


 しばらくすると、ガナックとセヴァルドは部屋を出て、地上に上がる。

 中庭を臨む支柱が並んだ回廊を歩く。

 セヴァルドは、ガナックに顔を向けずに口を開く。


セヴァルド「……何を企んでいる。」

ガナック「滅相も無い。私は、この世をより良いものにするために動くだけのこと。」

セヴァルド「…おぬしの父、エフガルと言ったか…」

ガナック「……」


セヴァルド「…少し調べた。彼は不審死を遂げたようだな。」

ガナック「…何が言いたい。」

セヴァルド「制度で生かされていることを忘れるな。」

ガナック「…はっ。肝に銘じておきます。」


セヴァルド「……“牙”への資金も馬鹿にならん。」

ガナック「…王宮が資金源の経路を嗅ぎ回っております。」

セヴァルド「わかっている。だから、これほどの手間を使っているのだ。」


セヴァルド「…“思想”では、飯は食えないということだ。」

ガナック「……。」


 セヴァルドは、そのまま振り返らずに奥の方へ去っていった。


ガナック「…セヴァルド・カルセイン…」




 ――パラキス地方グリアヘーゼ領、分校ファテール。

 屋外にて、修学中の文律師が練習を行っていた。


教師「では、次にエンボル。あちらのデコイをしっかり狙いなさい。」

生徒A「…“エンボル”!」


 それは、左手から放たれる光の弾――のはずだった。

 その若い生徒の左手付近で、その弾は勢いよく爆発する。


教師「!」


 それは、文律の暴発だった。

 周りにいた生徒が数人巻き込まれる。


生徒B「ごほっ、ごほっ!」

教師「な、何があった…!」

生徒C「い、痛い……。」


 土煙の中には、血だらけで倒れる若者の姿があった。


教師「お、おい…!…医者を呼べ!それと、包帯を…!」

生徒A「……」

教師「な、なぜ……指の基礎文律で…このような暴発が……!」


 その言葉に、誰も答えられなかった。


 それは、些細な事件のはずだった。

 ――だが、静かに、深刻に、この世界の“常識”が崩れようとしていた。


続く


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