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【第27話 救いきれないもの】

 炎の中。

 牙の戦士たちは、静かに引いていく。

 誰一人、取り乱さない。

 まるで最初から、ここに長居するつもりなどなかったかのように。


 瓦礫の向こう。

 ナイラが立っている。

 テスも、立っている。

 言葉はない。

 ナイラは、背を向けた。

 それだけだった。


 テスは、一歩踏み出しかけて――止まる。

 ……闇に消えゆく姉の後ろ姿を、ただ見ていた。


 ――悲劇の町に、やがて朝日が照らされた。

 煙を上げる家々、路上で倒れ込む人の姿、瓦礫の山。

 ある者は、死んだかのように座り込み、

 ある者は行き場のない無情な嘆きを吐き出していた。


村人「…なんで死んじまったんだ…」


 その男は、ある者の上着の裾を掴み、頭を付けた。

 ――それは“戦死”ではなかった。

 家族を失い、幼き子供を失った、最後の手段だったのかもしれない。

 軒下。

 縄が揺れていた。


キリカ「…形容できないわ、こんな光景…」

ジザ「…キリカ…」


レド「……救えなかった…。」


 明るくなった町は、レドたちの前に無慈悲な現実を映し出していた。


ガルド「おい、生きてる奴いるか!?」

テス「こっちだ、この辺りに声がした!」


 その二人は、こんな状況下でも瓦礫の中を懸命に探っていた。

 それを見たレドも、ハッと何かに気付いたのか立ち上がり、

 共に生存者の確認を始めた。

 やがて、ジザやキリカ、生き残った者たちの一部も、それに呼応するように動き始めた。


キリカ「……知っているでしょ、ジザ。」

ジザ「?」

キリカ「この町はね。…この“下”にあった古い遺跡の上に建っているのよ。」

ジザ「…知っているけど…どうしたのよ、急に。」

キリカ「…ここだけじゃない。ルガには、朽ちた遺跡はたくさんある。」

ジザ「…」

キリカ「昔の人たちも、こうやって殺し合って…死んでいったのかしら…」

ジザ「…キリカ…」

キリカ「……だったら、納得だわ。」

ジザ「…何が?」

キリカ「…“人殺しの末裔”が私たちでしょ?…止められないのよ、きっと。」

ジザ「キリカ、しっかりしなさい!」

キリカ「……。」


キリカ「…ごめん、ジザ。」


二人は、また瓦礫をどかし始めた。


テス「……」

ガルド「テス、休め。」

テス「何を言っている、私は大丈夫だ。」

ガルド「…顔色悪いぞ、お前。」

テス「……大丈夫だ。」

ガルド「…今、お前にも倒れられたら困るんだよ。」

テス「……ガルド、私は…!」

ガルド「大丈夫だ、テス。……何も言うな。」

テス「………ッ」


テスは、静かにガルドに背を向けていた。


カザーナ教師「レド殿。」

レド「あなたは…無事でしたか。」

カザーナ教師「申し遅れた、ライネスと言う。…我々にもできることがあれば言ってくれ。」

レド「…では、一緒に手伝ってください。ですが、彼は…ユリックは?」

ライネス「若い連中に任せてある。…なんとか一命は取り留めている。」

レド「そうですか…。それは、良かったです。」

ライネス「…だが、死んだように眠っている。」


ライネス「……このまま、起きることは無いかもしれない。」

レド「……」

ライネス「…彼は、特別だった。」

レド「…わかります。」

ライネス「……それだけの理由で、狙われたのだ。」

レド「……ええ。」

ライネス「…私は、これまでのたくさんの生徒に関り、若い文律師たちを世の中に送り出してきた。」

レド「……」

ライネス「…文律は、戦争の道具なのか。…私は、間違ったことをしてきたのか…。」


レド「…文律が無くとも、人は争います。」


レド「…問題なのは、その“使い方”のはずです。」

ライネス「……」


レド「…なぜ、この“力”は存在しているんでしょうか。」

ライネス「この立場にいながら、その問いにも答えることができん自分が情けない。」

レド「……なぜ、“血”が必要なのか……。」


ライネス「…この世界は、我々が計り知れない力で動いているかもしれん。」


レド「……原基…。」


ライネス「?……何か言ったか?」


レド「……いえ。」



 ――数日後、文院。

 会議室に、文院の文律師たちが列席している。

 スーラが、その部屋を訪れていた。


スーラ「“牙”からの返答が文書にて届きました。」

セヴァルド「…して、なんと?」

スーラ「…“末端の暴走によるもので、完全にこちらの不手際”ということで、“陳謝する”とのことです。」

ドレヴァ「ふざけたことをッ!こちらは、熟練の文律師二人と、集積所を失ったのだぞ!」

セヴァルド「…ドレヴァ、黙れ。」

ドレヴァ「!…」

セヴァルド「……エギング殿、おぬしの考えは?」

ガナック「…所詮は、テロ組織です。」


ガナック「…考えてもみてください。」

セヴァルド「…?」

ガナック「…やれても、精々この程度ということです。…甘噛みのようなものだ。」

セヴァルド「……。」


セヴァルド「彼らの利は、依然として我々が握っている。」

セヴァルド「…今は切らん。」

ガナック「…。」


ドレヴァ「我々がその気になれば、“牙”など容易に飢え死にさせることができる。」

ガナック「自惚れは破滅を呼ぶぞ、ドレヴァ。」

ドレヴァ「事実を言ったまでだ!我々によって、生かされていることを再認識させた方がよいでしょう?」


セヴァルド「……ルンド・バルゴアに報告する。」

ガナック「……」


ヴェシュラ「…ガナック様。…そろそろお時間です。」

ガナック「…もう、そんな時間か。」

セヴァルド「…大事な用でもあるのか、エギング殿。」

ガナック「陛下へのご報告がある。」

セヴァルド「…マリカナの森の調査の件か?」

ガナック「ミレンハーセで調査団の報告を待ったが、これといった収穫は無い。」

セヴァルド「…残念だな。新たな居住区とはならんか?」

ガナック「国外は文律の効果も薄まる。…住めるとしても、管理できまい。」

セヴァルド「……なるほど。」


ガナックとヴェシュラが退室する。


ドレヴァ「…ガナックめ、澄ましやがって…」

セヴァルド「……スーラ。」

スーラ「はい?」

セヴァルド「…あちらの報告は?」

スーラ「……はい。…まだ“決定的証拠”は…」

ドレヴァ「…?」

セヴァルド「…そうか。引き続き、頼む。」

スーラ「……はっ。」


 ――“決定的証拠”は、まだ出ていない。

 だが。

 何かが、確実に動き始めていた。


続く


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