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【第26話 一線】

 城壁の上。

 夜風が、炎と血の匂いを運んでいた。


テス「……。」


ナイラ「来い。」


テス「……行かない。」


 わずかな沈黙。


ナイラ「そうか。」


 踏み込み。


テス「――ッ!」


 反射で後退。弓を引く。

 矢が放たれる。


 ナイラは、斬った。

 矢が、空中で弾ける。


テス「……!」


 二射、三射。


 ナイラは止まらない。

 弾き、避け、距離を詰める。


ナイラ「遠いな。」


テス「……!」


 詰められる。

 テスは、弓を捨て、短剣を抜く。


 金属音。


ナイラ「ほう。」


 一合。

 重い。

 受けた瞬間、腕が軋む。


テス「……ッ!」


ナイラ「その程度か。」


 連撃。――速い。重い。


 逃がさない。


 テスは後退しながら、必死に受け流す。


ナイラ「守るための刃は軽い。」


テス「……違う。」


ナイラ「何が違う。」


 斬撃。

 受ける。

 流す。

 足場が崩れる。


テス「……それでも!」


 踏み込み返す。

 短剣が、ナイラの懐を狙う。


ナイラ「甘い。」


 弾かれる。

 テスの体勢が崩れる。


ナイラ「見ろ。」


 一瞬、視線を下へ誘導する。


 炎。

 悲鳴。

 倒れる人々。


ナイラ「それが、この世界だ。」


 ナイラが振り下ろす。

 テスは転がるように回避する。


ナイラ「守る?」


ナイラ「何人、救えた。」


テス「……!」


 言葉が詰まる。


ナイラ「選べ。」


 一歩。


ナイラ「この世界か。」


 さらに一歩。


ナイラ「……それとも、私か。」


テス「……。」


 呼吸が荒い。

 腕が震える。

 だが、刃は落ちない。


ナイラ「来い、テス。」


ナイラ「お前は、そちら側じゃない。」


テス「……。」


 一瞬、止まる。

 ――その時。


「テス!!」


 下からガルドの声。


テス「……!」


ナイラ「……邪魔が入ったか。」


 その一瞬。


 テスが踏み込む。

 短剣が閃く。


ナイラ「……悪くない。」


 ナイラは受ける。

 押し返す。


 肘打ち。

 衝撃。


テス「……ッ!」


 テスは吹き飛ぶ。

 膝をつく。


ナイラ「だが、足りん。」


 ゆっくりと歩み寄る。


ナイラ「覚悟が。」


 テスは顔を上げる。

 まだ揺れている。


 それでも――折れていない。


テス「……それでも。」


ナイラ「?」


テス「……見捨てない。」


ナイラ「……。」


 わずかな沈黙。

 ナイラは、ほんの僅かに目を細めた。


ナイラ「……そうか。」


 ほんの一瞬。

 テスとナイラの視線が交わる。


 剣が振り下ろされる――

 その瞬間。


 地が、唸った。


テス「……!?」


 一拍遅れて、衝撃が突き上げる。


 城壁の石が軋む。


ガルド「テス!!」


 轟音。


 城壁の一部が、崩れた。


ナイラ「……!」


 足場が割れる。


 テスの身体が、宙に浮く。


テス「……ッ!」


 崩落。


 石と炎と煙が、すべてを呑み込む。


 ――視界が、途切れた。




 文院の集積所。


オルトラ「……長すぎる。」

グラム「…ここは、本当に安全なのか?」

オルトラ「そういう手筈だ。…そうでなければ、“牙”もただでは済まない。」

グラム「……。」


 次の瞬間、集積所の扉が何者かに蹴破られる。


オルトラ「!」


 それは、返り血で体や刀身を染めている“牙”の戦士たちだった。


オルトラ「貴様ら、何しに来た!」


牙の戦士「…ここは、民家だな。」

オルトラ「何を言っている…?」

グラム「末端まで指令が届いていないのか…!?」


 戦士の中から、一人の男が前へ出た。


男「全員が命を賭している中、高みの見物。…さぞ気持ちが良いだろう。」


オルトラ「貴様…!“牙”の幹部の…!」


 男は、すさまじい速度で抜刀した。

 オルトラの首が宙を舞う。


グラム「なっ…!」

男「“牙”を舐めるなよ。」


グラム「“エンボル”!」


 男は、グラムの放った光弾を、間一髪で躱す。

 次の瞬間には、グラムの至近距離へと潜り込んでいた。


グラム「き、さ…!!!」

男「死ね!」


グラム「…ま……」


 グラムの胸部に強烈な斬撃が入る。

 血しぶき。


牙の戦士「…さすが、ボイザム様。見事な剣さばきだ。」


ボイザム「…乱戦には、“事故”が付き物だ。」

牙の戦士「…はい。」


ボイザム「だからこそ、面白い。」


ボイザム「ナイラ殿を探せ。退却命令を出すように伝えろ。」

牙の戦士「了解!」


 ――その夜。

 トラウダンは、完全に制御を失っていた。


続く


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