【第25話 姉妹】
トラウダンのすぐ近くの森の中で数人の影があった。
若い文律師「本当に、こんな所に居て大丈夫なんですか!?」
カザーナ教師「今からカザーナに我々だけで戻る方が危険だ。」
カザーナ教師「ここで、ユリックの応急処置をする。手伝え。」
若い文律師「は…はい!」
ユリック「……。」
――トラウダン市街地。
住民A「助けてくれぇぇ!!」
警備兵「持たん!この数は…!」
住民B「早く、こっちへ!中に入れ!」
住民C「あんたも早く!」
路上に無残に倒れた住民のすぐ横を、
血の匂いを掻き分けるように、
パニックになった人々が往来する。
牙の戦士A「どらぁ!」
住民D「あぁッ!!」
牙の戦士A「お前ら!暴れ時だぞッ。存分にやれ!!」
牙の戦士B「そこの女!こっちへ来い。」
住民E「や、やめッ…!」
牙の戦士B「かわいがってや…ッ!!!」
住民E「…!」
男の首を矢が貫く。
テス「しゃがむな!走れ!」
住民「こ…腰が…!」
牙の戦士A「てめぇ、邪魔しやがって!…ファムロテ人のくせに、敵側か!?」
テス「関係ない!」
牙の戦士A「やっちまうぞ、こら!」
ガルド「お前がな。」
牙の戦士A「なにッ!ぐあッ!!」
後ろからガルドが、もう一人の男を斬り伏せる。
ガルド「前に出すぎだ、テス。」
テス「…問題ない。あそこに加勢するぞ!」
ガルド「お…おい!……ったく。」
その一本隣の通り。
肩をぶつけ、罵声を浴びながら群衆を抜けると、
目の前には“牙”の戦士たちが迫ってきていた。
牙の戦士「邪魔だ、どけ!」
警備兵A「うごぁ!」
レド「退けッ!…ここは、オレが止める!」
警備兵B「味方…?おい、お前ら、防衛線を後退させるぞ!」
レド「…エン――」
レドが文律を唱える、その途端だった。
ジザの威勢の良い声が響く。
ジザ「“エンボル”!」
レド「!…ジザさん、屋根の上か!」
それは、雨のごとく、数多の光弾が“牙”たちへ降り注がれた。
土煙の中から数人が逃げ延びる。
キリカ「逃がさない!…“エンボル”!」
キリカの追撃は、逃げ出そうとした戦士たちを直撃した。
ジザ「やるじゃない、キリカ。」
キリカ「…あなたこそ。」
遠くで、悲鳴が途切れない。
火の粉が、風に乗って降り注ぐ。
ジザ「レド!…次、行くわよ。」
レド「…はい、わかっています!」
逃げ惑う住民たち、襲い掛かる牙、それを守ろうとする警備兵やレドたち。
戦いの様相は、混迷を極めていた。
しかし、確実に牙の勢力は、その勢いを増しつつあった。
――文院の集積所。
外の喧騒を遮るように、
落ち着いた様子で椅子に腰かける文律師の姿があった。
オルトラ「…さて、あとは“演出”だけだ。……壊れる様を、見届けようじゃないか。」
グラム「…そうだな。」
オルトラ「しかし…あのレド、生きていたとはな…。」
グラム「レグナスとミルザが片づけたと思っていたが…」
グラム「これで、あの二人が“左遷”させられた合点が付くな。」
オルトラ「…問題は、どのレベルで隠蔽しているのか、だ。…ドレヴァが嘘を吐いているか。」
グラム「まさか。…奴は、所詮セヴァルド様の腰巾着に過ぎない。」
オルトラ「ルンド・バルゴアも、奴に熱心だった。」
オルトラ「…今頃、血眼で探しているかもしれんな。」
グラム「たった、一人のために?」
オルトラ「…“上”のお考えは、我々には計り知れん。」
グラム「…。」
オルトラ「しかし、一つだけわかることがある。」
グラム「?」
オルトラ「…我々は“選ばれた”側だ。……ふふふ…」
――再び、市街地。
テスが城壁の上へ登り、高所から矢を放つ。
家屋の一部からは、放火により激しい炎が、夜の闇の中で揺れ動いている。
壁の下でガルドが、テスを見上げる。
ガルド「この辺りは、もう居なさそうか!?」
テス「ああ!だが、北側は押されている!そっちへ行くぞ!」
一瞬、音が消えた。
風の音だけが、壁の上を抜ける。
ナイラ「逞しくなったな、テス。」
ナイラは、城壁の上にいた。
ガルド「!」
テス「!!…」
テス「…姉さん……。」
ナイラ「人を傷つけることも恐れていたお前が…」
ナイラ「なかなかどうして、果敢になったじゃないか。」
テス「……。」
ナイラ「…それでこそ、我が妹だ。」
ナイラ「……我々と来い、テス。」
テス「!」
ナイラ「この腐った世界に、従う必要はない。」
続く




