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【第24話 合流】

 デインラム領、領主の館。

 夕刻。灰色の雲が茜色の空に被さっている。


デインラム警備兵「…ご報告は以上です。」

ロルダン「ご苦労。引き続き、カナフス周辺に二交代制で警戒網を敷け。」

デインラム警備兵「はっ!」


ロルダン「ジザ、テス。お前たちもご苦労だった。」

ジザ「…解せないわ。」

ロルダン「なんだ、ジザ。」

ジザ「あそこまで派手にやっておいて、撤退するなんて…おかしいわ。」


ジザ「…いや、“撤退”じゃない。……あれは、最初から長居する気がなかった。」


ロルダン「…被害報告には文律師2名、住民13名とあるが…。」

ジザ「確かに家屋に火を放って、略奪もあったわ。」

テス「…そこまでして、退却の理由が見当たらない。」


ロルダン「…そういうことか。お前たちには言いにくいが…」

テス「?」

ロルダン「“牙”は今、このローダ地方の複数地点で同時攻撃を展開している。」

ジザ「なっ…なんですって…?」


ロルダン「…戦争のやり方だ。」


ロルダン「今朝、オングステート領主より協力要請の文書が届いた。」

テス「カナフスへの攻撃は、防衛戦力を分散させるためということか?」


女「…そうとも取れるわね。」


 文律師の女が領主の館から出てくる。

 紺色の髪に色白の肌は、イオルハ人そのものの特徴だ。


ジザ「キリカ…!」

ロルダン「彼女が、我々へ知らせてくれた。」

キリカ「浮板で、ぶっ飛ばしてきたのよ。…ジザ、久しぶりね。」

ジザ「やだ、久しぶりじゃない!?」

ロルダン「…そうか。君たちはカザーナの同級生だったか。」

テス「…それで、ロルダンさん。言いにくいっていうのは?」


ロルダン「…ああ、そのトラウダンへ赴いてくれんか?」

ジザ「……今、帰ってきたばかりよ?」

キリカ「“牙”の主力が、トラウダンを襲撃しているの。」

テス「…!」

ロルダン「カナフスとは比べ物にならない兵力と聞く。」

ジザ「なによ、それ…。」

ロルダン「…未曽有の事態だ。…すまない。」

テス「…。」

ジザ「はぁ…これも、友人の為ね。しょうがないか。」

キリカ「恩に着るわ、ジザ。」

ジザ「テス、あなたは――」


テス「…行く。」


ジザ「!……会うかもしれないわよ?」

テス「ああ。…わかっている。」

ジザ「……わかったわ。決まりね。」


キリカ「時間が惜しい。…よろしく頼むわ。ジザ、テスさん。」

ロルダン「デインラムの東部にいる警備兵たちにも向かわせるとする。」

キリカ「…ご協力ありがとうございます。領主様。」

ロルダン「礼は、この二人に言ってくれ。」


 三人は、浮板を使って颯爽と去っていった。


ロルダン「…我々も散々、オングステートには助けられたからな。」

ファーボ「先代からの盟友ですから。」

ロルダン「……しかし、不可解な動きだ。」

ファーボ「最近、特にあからさまになってきている気がします。」

ロルダン「…。」


ファーボ「こんな時に、ガルドとレド殿がいれば……ですか?」

ロルダン「……ふん、二人居ただけで戦局がひっくり返るわけはない。」


ロルダン「だが…人手は足りん。」

ファーボ「…素直じゃないんだから。」

ロルダン「何か言ったか?…ファーボ、忙しいのはこれからだぞ。」

ファーボ「はい、領主様。」




 ――カイグンクス領。

カザーナ教師「…死ぬな。まだ、死んでは駄目だ…。」

ユリック「……。」


若い文律師「!…骸府だ…!」

カザーナ教師「!」


 “それ”は、そこに立っていた。


骸府「………」


 骸府は、教師に抱きかかえられたユリックの横を通り過ぎると、

 ニルヴァンの亡骸の前に立った。


カザーナ教師「見るな。…呪われるぞ。」

若い文律師「わかっています。」


レド「……連れていかれる。」

ガルド「……」

レド「ガルドさん…ユリックを…」

ガルド「…ああ、わかっている。」


 ガルドの後ろには、骸府が静かにもう一人立っていた。


ガルド「黙って他人の後ろに立ちやがって…。」

レド「……」

カザーナ教師「君、一体何をする気だ…?」


 ガルドは、背中に掛けていた、もう一本の剣を抜いた。


ガルド「…去れ。」


 ガルドが向けた剣の切っ先は、骸府の仮面の前に突き出された。


骸府「………」


 骸府は、静かに振り返る。

 まるで、“行き場”を失ったように、揺れながら離れていく。


カザーナ教師「…ど、どういうことだ…!」

ガルド「…さあな。」

レド「さあ、彼の介抱を。」



 ――オングステート領、トラウダン。

 崖上からナイラは町を見下ろしていた。


ナイラ「…思いのほか、手こずっているようだな。」

牙の戦士「破城槌で攻め立てているところを、弓や文律で集中的にやられています。」

ナイラ「手際が悪い。…末端はこの程度か。」

牙の戦士「敵に、優秀な文律師がいるようです…。」


牙の戦士「ナイラ様。そろそろ、待機している部隊も動かしますか?」

ナイラ「……まだ足りん。……これでは、約束に届かん。」

牙の戦士「では、援軍を遣わせます。…第三部隊、用意にかかれッ!」


 ナイラの下に、二人の文律師が近づく。


オルトラ「苦戦の様相ですね。」

ナイラ「オルトラ殿とグラム殿。…首尾はどうだ?」

オルトラ「…ええ。例の奴は片付きました。…ただ…」

ナイラ「ただ?…ニルヴァンの姿が見えんな。」

グラム「はい、邪魔が入りまして。彼は、そこで…」

ナイラ「…そうか。」


 ナイラは、わずかに目を細める。


ナイラ「…死んだか。」


ナイラ「…これも、予定通りか?」

オルトラ「滅相も無い。彼も、我々にとっては大切な“友人”です。」

ナイラ「…文院の貴様らは、無事のようだが…」


ナイラ「……それで、邪魔とは?」

オルトラ「剣士と“元文院”の文律師でした。」

ナイラ「……元文院?知っている者か?」

オルトラ「はい。…ただ、奴は死んだというのが我々の認識です。」

ナイラ「…話が見えないな。そいつが、ニルヴァンをやったということか…?」

グラム「奴は…危険だ。この表現が正しいかはわからないが…。」

ナイラ「名は?」

グラム「…レドだ。ガキの頃から文院にいて、文律の扱い方が“おかしい”奴なんだ。」

ナイラ「…?」

オルトラ「…では、我々は手筈どおりに。…これにて失礼する。」


 グラムとオルトラが、夜の森の中へ消えていく。

 ナイラは崖の淵に立ち、腰に差していた剣を引き抜く。


ナイラ「…愚かな奴らめ。我々を手懐けたつもりか…。」


ナイラ「…例外など居ない。“牙”は、暗愚な豚どもを例外なく粛清する。」



 ――その夜。

 トラウダンの城壁は、“牙の第二波”により、とうとう内部への侵入を許した。

 雪崩れ込んだ“殺戮者”たちは、民家を徹底的に破壊し、逃げまどう者たちを狩った。


キリカ「…やはり、手遅れだったか…!市街地に侵入されている!」

ジザ「いえ、まだよ!」

テス「人が…襲われている…!」


 浮板から降りた三人は、町を臨む森の中にいた。

 テスが数歩前へ出る。


ジザ「テス、待ちなさい!まずは、現地戦力と連携を取らないと!」

テス「…わ、わかってる…!」

キリカ「東門は突破されている。主戦場は町の東部だわ。…南から入りましょう。」

ジザ「大丈夫なの?」

キリカ「顔は通っている。……はっ!」


キリカの足元に、矢が突き刺さる。


牙の戦士「あそこだ!伏兵がいるぞ!」

ジザ「キリカ、バレてるじゃない!」

キリカ「こんな所にも、展開しているなんて…!」


 弓兵と槍を携えた野蛮な風貌の男たちが、斜面を下って接近する。


ジザ「まずは、こいつらからね…!」

キリカ「ここは、私に任せておきなさい…」


牙の戦士「んぎゃぁ!!!」


 斜面にいた戦士たちは、地滑りを起こしたかのように一斉に滑落した。


ジザ「やるじゃない、キリカ!」

キリカ「…私じゃないわ。」

ジザ「えっ。…じゃあ、だれの文律よ?」

テス「上に、誰かいる…?」


レド「……間に合わなかった…!」


 斜面の中腹に立つレドは、町を見下ろす。

 町から悲鳴が上がる。


テス「レド…!…ガルド!!」


 ほんの一瞬、言葉が途切れる。


レド「……」


レド「テスさん!…それに、ジザさんも…!」


ジザ「なんですって?」

ガルド「……お前ら、なんでここにいる」


ジザ「…なんだ、生きてたんじゃない。」

ガルド「お前な…」

キリカ「感動の再会のところ、申し訳ないわね。…さあ、早くこっちへ!」


ガルド「ん?」

ジザ「オングステートのキリカ。大丈夫、私の友達よ。」

ガルド「お前の…友達?」

ジザ「いるわよ、それくらい!」

レド「…」


ジザ「あんたも、ぼさっと立ってないで、早く来なさい!」

レド「…は、はい!」


続く


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