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【第20話 夜明け前】

【第20話 夜明け前】

 ローダ地方カイグンクス領。

 なだらかな丘が広大に続くこの地帯は、ローダ地方有数の穀倉地帯だ。

 ガルドとレドの旅路も、終点が近づきつつあった。


 二人の少し先で、馬車を引いた者たちがいた。


ガルド「…輸送隊?」

レド「……あれは、カザーナ分校の紋章。」


レド「…羊皮紙やインクなどの物資でしょうか。」

ガルド「……ずいぶんと厳重な警備だな。」

レド「貴重なものですから…。」


レド「……ただ、それにしても……少し、過剰です。」

ガルド「……賊が増えてきているとはいえ…。」


 しばらく進むと、二人はその一行に追いついた。


 馬車の後ろを歩いていた文律師たちが振り向き、立ち止まる。


男A「…何者だ?」

ガルド「デインラムの用心棒だ。…帰路の途中だ。」

男B「デインラム…。そちらのお方も?」

ガルド「…ああ。」


 ガルドの陰から、レドがわずかに顔を出す。

 その若者たちは、レドの印を見た瞬間、明らかに空気を変えた。


男A「…も、文院…。」

レド「……今は、デインラムで奉公しています。」

男B「…左様ですか。」


 ――その時。


 馬の一頭が、わずかに首を振り、鼻を鳴らした。

 落ち着かない様子で、地面を掻く。


ガルド「……?」


 馬車の中から、若い男が顔を覗かせる。


若い男「…どうかしましたか?」

男A「ファーレインさん。…いえ、旅の者でした。問題はありません。」

男B「ただ、文院の出の方が…」

若い男「……文院…?」


 レドは、厄介なことになると身構えた。

 若い男は、ゆっくりと馬車を降りる。


 暗い茶髪が目元を隠し、小柄でやせた体躯。

 だがその動きには、妙な“無駄の無さ”があった。


若い男「……ユリック・ファーレインと申します。お名前を?」

レド「…レドです。」


 ユリックは、わずかに視線を落とし、レドの指先を見た。


 ――一瞬だけ、笑った。


ユリック「……なるほど。」


 その声音は穏やかだったが、どこか“評価する”ような響きがあった。


ユリック「……あちら側は、まだ“保たれている”のですね。」

レド「…?」

ユリック「いえ。……安心しました。」


 レドは答えられなかった。


 ユリックの言葉は柔らかい。

 だが、その意味だけが、どこか噛み合わない。


ユリック「あなたほどの方には、そうお会いできません。」

レド「……い、いえ…。」


 ユリックは微笑んだまま、ふと周囲を見渡す。


 その瞬間、さっきまで落ち着かなかった馬が、ぴたりと静かになった。


レド「……」


レド「…カザーナ分校の方ですね。この先は?」

ユリック「はい。トラウダンへ。」

ガルド「…集積所か。」


男A「このご時世です。用心が必要でして。」

ガルド「わかるさ。……気をつけろよ。」

男B「あなたたちも。それでは。」


 一行は再び進み出す。


 馬車の中には、ユリックのほかにも若い男女。

 荷台には、守衛の文律師たちが肩を寄せている。


レド「……まだ、修学中の者もいる感じですね。」

ガルド「懐かしいか?」

レド「……どうですかね。」


 少し間を置いて、レドが口を開く。


レド「……あの人。」

ガルド「…?」

レド「……変だ。」


レド「……“流れ”が、合わない。」


 ガルドは何も言わなかった。


 ただ一度だけ、振り返った。





 その夜。


 二人は野営をした。


 火は小さく、音もない。


ガルド「明日には着く。」

レド「……はい。」


 それ以上の言葉はなかった。


 ――「文律師の“死”の上に成り立っている」

 ――「“どう変えるか”だろうが!!」


 レドの中で、ガルドの声が反響する。





 ――物音。


 レドは目を覚ます。


 すでに、火は消えていた。

 ガルドが、闇の奥を見ている。


レド「……なんです?」

ガルド「……さあな。だが、夜に動く奴は――」


 レドが立ち上がる。


ガルド「…おい、坊主。」

レド「……行きましょう。」





 ――キールバン地方。


 森の中の野営地。


男「…ナイラ様。手筈どおりに進んでいます。」


 ナイラは剣を肩に担ぎ、短く答える。


ナイラ「日の出だ。一斉にやれ。」


男「…はっ。」


ナイラ「本丸はトラウダン。……そして、“奴”の暗殺だ。」


男「……“上”からの命令で。」


ナイラ「ああ。」


男「我々には関係のない話ですが…」


ナイラ「口を慎め。」


男「……はっ。」


ナイラ「ニルヴァンは既に向かわせた。問題ない。」


男「……ひとつだけ。」


ナイラ「?」


男「デインラムには――」


ナイラ「……。」


男「……失礼しました。」


 男は去る。


 ナイラは、しばらく動かなかった。


ナイラ「……余計な動きをすれば、容赦はしない。」




 ――再びカイグンクス領。

 馬車の中、ユリックは目を閉じている。


ユリック「(……夜が、静かすぎる。)」



続く


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