【第19話 峠の村】
アリハンテ地方カナソーラ領。
レドとガルドは、グノース川のほど近い峠道を進んでいた。
川の向こうは、ローダ地方だ。
あれ以来、ガルドとレドの間には、無言の時間が大半を占めていた。
ガルド「…この先に、小さな集落があったはずだ。そこで一旦、休息する。」
レド「……はい。」
坂を越えて見張らせる場所へ着いたとき、二人はある違和感を抱いた。
――村の方が騒がしい。
レド「…あれは…悲鳴…?」
レドが不穏な雰囲気を感じ取っている間にも、
ガルドはギャヴに乗り出すと瞬く間に駆けだした。
レド「!……ガルドさん!」
レドは走って追いかけるも、ガルドの後ろ姿はすぐに林の中へ消えていった。
馬を駆るガルドの前方から逆走する者たちがいた。
ガルド「何が起きた!…賊か!?」
男「ああ!アンタも逃げろ!……あれは“牙”だ!」
ガルド「!?…なんだと…。」
女「まだ、あそこには祖母が…!」
男「無理だ!戻れば殺されるぞ!」
ガルド「…ちっ!」
ガルドは、迷うことなく集落へと駆け始めた。
男「お、おい。…旦那!殺されるぞ!」
集落に近づくにつれ、その惨状が目に飛び込んでくる。
破壊された家の扉、無残に尽きた老人、燃えさかる小屋。
ガルドは、ギャヴから降りると、背中に携えた2本の剣のうち、鋼の剣を引き抜いた。
ガルド「… “義賊”なんて話も聞くが…。やっていることは、そこらの賊と変わりねえ。」
そのまま集落の中に入ると、数人の男が集まっている姿を確認する。
賊A「…おいッ!金はこれで全部か!?」
老婆「…ひ、ひぃ……!」
賊A「答えねえと撥ねちまうぞ、その細い首をよォ。」
老婆「…お、お助けを……!」
賊B「とっとと、取るもん取って、ずらかろうぜ。ババアと遊んでもつまらんだろ。」
賊A「はははッ!それは、たしかに…ぐぇ!!!」
一人の賊の首が飛ぶ。
賊B「ひ、ひぃ!」
ガルド「てめえら、“牙”か。」
賊B「や、やめ…!」
ガルドは、素早い動きで、もう一人の賊を剣で貫く。
賊B「ぐ、ぐぼっ…!!」
ガルド「……。」
ガルド「おい、ばあちゃん。…早く逃げろ。」
老婆「ひぃい!もう、嫌だ!わしゃ、もう…!」
ガルド「…。」
駆けてくる足音が、ガルドの後方で響く。
レド「はぁ…はぁ。……ガルドさん。」
ガルド「……奴らは、もう好き放題に暴れた後だ。」
レド「…やはり、“ダイガナの牙”の仕業なんですか?」
ガルド「…ああ。」
レド「“牙”は、貴族や財力のある場所しか襲わないと聞いていますが…」
ガルド「馬鹿だな。…下っ端どもが、そんなお利巧なわけねえだろ。」
レド「……。」
ガルドは家の中に入り、荒々しく破壊された惨状を見渡す。
ガルド「…こいつぁ、ひでえ。」
ガルド「…死んでる。」
レド「……」
レドは、言葉を失った。
ガルド「…“牙”に、どんな崇高な目的があるかなんて、知らねえ。」
ガルド「…お前は、これも“必要な犠牲”だと思うか?」
――デインラム領。領主の館。
ファーボ「お帰りなさい。」
ロルダン「おう。…ジザ、同行ご苦労だった。ゆっくり休むといい。」
ジザ「…そうね、くたびれたわ。ちょっと部屋で休んでるから。」
ファーボ「…どうでしたか?」
ロルダン「どこも慢性的な食糧不足だ。…特に辺境では、それが顕著だ。」
ファーボ「…最近は、整地や灌漑をしても、土壌が悪ければ作物も実りませんからね。」
ロルダン「それに、治安悪化もデインラムだけではないな。隣のオングステートも相当やられている。」
ロルダン「それにな。…今回、王宮の者が数名同席していた。」
ファーボ「…なんと。エストルドの者ですか?」
ロルダン「…奴ら、“文律師を増やす”と抜かしやがった。」
ファーボ「……それはまた。あの“賢王”でも今回ばかりは、文院に押されたんでしょうか。」
ロルダン「彼らは、この国の“生命線”だ。王宮は、首根っこを掴まれている。」
ファーボ「…して、どんな政策を?」
ロルダン「文院…特に分校に入る敷居を下げるらしい。」
ファーボ「やれやれ、国の考えていることはわかりませんな。」
ロルダン「…それと、“牙”の件。…会合でも当然議題に上がった。」
ファーボ「元々は、ファムロテ人への冷遇の反動として生まれた組織ですが…。」
ロルダン「なぜ、あの組織はここまで巨大化し、存続できるのか…。ファーボ、どう思う?」
ファーボ「…あの規模で、補給が途切れぬなど…」
ファーボ「…考えたくはありませんが、強力な後ろ盾があるとしか思えませんな。」
ロルダン「……そうでなければ、説明がつかん。」
続く




