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【第16話 再会】

 路傍の雑草に霜が降りる。旅は10日以上が経過していた。


 ――北方の高原ミレンハーセ領。

 まるで来るものを拒む山間部の小さな村、リーツェ。


 古めかしい小さな民家の戸口にレドが立っていた。

 少し間をおいて、ゆっくりとノブに手を掛ける。


ガナック「…ご健在のようだな。…“しかめっ面”。」

レド「…ガナック。」


 ガナックは、立ち上がらず椅子に腰かけたまま、脚を組みなおした。

 その奥には、壁際に佇む女性の姿があった。


レド「…。」

ガナック「人見知りも変わらんな。…なんだ、忘れたのか?」

レド「…ヴェシュラ、さん…?」

ヴェシュラ「……レドさんですね。ご無沙汰しております。」


ヴェシュラ「最後に会ったのが、もう10年くらい前になります。…覚えてくださり光栄です。」

ガナック「…まあ、座れ。」


 レドは言われるがままに、ぎこちなく座る。

 部屋の中は、数本の蠟燭だけが小さな炎を灯している。


ガナック「…つまらん世間話の為に、呼んだのではない。」

レド「…。」

ガナック「…覚えているか?…昔、お前に話したことを。」


 レドは、忘れているはずがなかった。

 ――遠い記憶だが、その言葉は鮮明に蘇える。


 「…オレは、“文院”を潰す。…奴らは、他人の死に則った社会を作っているんだ。」


 ――それは、ガナックとレドが、まだ“少年時代”の話だった。


レド「…ああ。…君は、“あの時のまま”か?」

ガナック「当然だ。…この立場を得て、ようやく実行できる段階になった。」

レド「…詳しいことは知らないが……死ぬよ。」

ガナック「月並みなことを言う。」


 少し間を置いて、ガナックは口を開く。


ガナック「…父の遺言は正しかった。」


ガナック「“原基”は存在している。」


ガナック「同時に、悪用されている。」

レド「……。」

ガナック「…それを独占している者は、わかっているだろう?」

レド「…文院最高評議機関ルンド・バルゴア。」

ガナック「そうだ。世にある文律は、奴らの都合で出来ている。」

レド「…だが、文律無しでは生きられる世界ではない。」

ガナック「まるで、ルンド・バルゴアのような台詞だな。」


ガナック「多くの文律師は、何も知らずに人生を終える。…だが、お前は違う。」

レド「…。」


ガナック「文律の代償は“血”だろう?…構文を記述するインクも然りだ。」


ガナック「…では“骸府”は?」

レド「…知らない。」

ガナック「いや、お前は感づいているはずだ。」


ガナック「…奴らは“死の案内人”でも、“死神”でもない。」

レド「…。」

ガナック「死体の回収目的は、その“血肉”だ。……原基は、それで動いている。」

レド「…ガナック。」


 レドがガナックの演説を制止する。

 ヴェシュラは、静かにレドを見ていた。


レド「…それを、オレに話して…どうするつもりだ?」

ガナック「ようやく察したか。」


ガナック「お前はもう、戻れない側の人間だ。…レド。」


レド「!…。」

ヴェシュラ「……。」

ガナック「この腐敗した社会は、原基を無力化しない限り、立ち直れない。」

レド「…本気で言っているのか?」

ガナック「ああ、もちろん。お前の力が必要だから、ここへ呼んだ。」


ガナック「このまま、その辺で暮らしていても、いずれ追手によって消されるだけだぞ。」

レド「…オレは……。」


レド「ガナック。……それは違う。」


レド「……。」

ガナック「…?」

レド「…間違っているのは、腐敗した人間そのものだ。」

ガナック「お前こそ間違っている。…原基が人を狂わせるのだ。」


レド「…お前には協力できない。」

ガナック「……。」


 ガナックは、おもむろに椅子から立ち上がる。

 窓の外には、静かに雪が舞い始めていた。


ガナック「…そうか。残念だ。」

レド「…ここに来た目的がある。…ひとつ、聞きたい。」

ガナック「…なんだ?」

レド「……仲間が一緒に来ている。呼んでいいか?」

ガナック「…ああ。」


 しばらくすると、レドはガルドを連れて再び入った。

 ――ガルドは、端的に用件だけを話す。


ガナック「…それは、ゲルザードだろう。」

ガルド「…ゲルザード…」


ガルド「そいつは…どこにいる?」


ガナック「……“始末”された。」


ガルド「…!」


ガナック「…奴は、骸府を管理する道具を、“何者”かに奪われた。…しかもそれを長い間、秘匿していたようだ。」

ガルド「……。」

ガナック「そうそう。ちょうど、貴方が持っている“それ”みたいなものだ。」


 ガナックが不敵に笑みを浮かべる。


ガルド「……。」

レド「…ガナック。これは…」

ガナック「慌てるな。…それを取り返そうなどと思っていない。」

レド「…。」


ガルド「死んだ…だと……?」

ガナック「…そうだ。要件は以上か?」

レド「…ああ。」


ガナック「……そうか。」


 レドは、ガルドを連れて出口へ近づく。


ガナック「レド。」

レド「…?」

ガナック「…仕事の関係でしばらくこの村に滞在している。」


ガナック「…気が変わったら、いつでも来い。」

レド「……。」


 レドは、何も言わずに出た。


ガルド「…くそっ!」


 ガルドは、外へ出るや否や、地面を思いきり殴った。


ガルド「ふざけんな!……勝手にくたばりやがって…!」

ガルド「……オレは、何のために…ここまで来たんだよ…」


レド「…ガルドさん…」

ガルド「じゃあ、なぜ…レータは死んだ!…なぜ、殺される必要があったんだ!」

レド「……。」


 再びガナックのいる部屋。


ヴェシュラ「…ガナック様。」

ガナック「……なんだ?」

ヴェシュラ「…文院を抜けた者に…あれほど話して良いのですか?」

ガナック「……ふん、お前に言われる筋合いはない。」


ヴェシュラ「…貴方らしくないですね。」


 ガナックは、何も答えなかった。


続く

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