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【第15話 シャバームにて】

 出発して3日目。レドとガルドはローダ地方最大の都市、シャバームに着いていた。

 通りには露店が並び、多くの住民たちが行き交う。


ガルド「今日は、宿に泊まれそうだな。」


 ガルドは赤い実を口に投げ入れる。


レド「…?」


レドは、通りから一本入った裏路地から聞こえる音に気が付く。


レド「…誰か、襲われています。」

ガルド「おい、待て。…首を突っ込むな。」


 レドは制止を無視して狭い路地へ進む。


男「た…助けてくれ…!」

レド「…!」


 レドに気付き、男は言った。口から血を流して倒れ込んでいる。

 周りには数人の“戦士風”の男たちが囲んでいる。


レド「…(ファムロテ人…)。」

ガルド「…ったく。」


戦士風の男A「貴様ら、何の用だ?」

レド「…それは、正当なことですか?」

戦士風の男A「…ああ?何者だ、言え。」

戦士風の男B「おい、待て。…あの刻印。」

戦士風の男A「…ちっ、文院かよ。」


男「…お、オレは…“牙”じゃない……。」

レド「…大丈夫ですか?」


 レドは、倒れている男の傍に駆け寄る。


戦士風の男C「…萎えたわ。行こうぜ。」


 その男たちは、そそくさと去っていった。


ガルド「…こりゃ、リンチだな。」

レド「彼が、ファムロテ人だから…そういうことですよね?」

男「……シャバームに…作物を売りに来ただけ…なのに…!」

レド「…酷い。」

ガルド「ファムロテ人への偏見は年々深まってる…。胸糞悪いな。」

男「…“ダイガナの牙”のせいだ…!」

レド「…。」


 ――その晩、宿屋。

 ガルドはベッドに仰向けで寝そべっている。

 レドは2階の窓から、松明が点々と灯る通りを眺めている。


レド「…ガルドさん。」

ガルド「なんだ、坊主。」

レド「…いつから、デインラムで用心棒をしているんです?」

ガルド「…そうだな、もう10年近いかもな。」


レド「…その前は、どうしていたんですか?」

ガルド「……傭兵だった。」

レド「…そうですか。」

ガルド「それしか、できなかったのさ。…オレは。」

レド「…。」


 ガルドは体を起こして、ベッドに立て掛けられていた剣の柄を触る。


ガルド「レータは文律師だった。」

レド「…。」

ガルド「…元々、主を持たずに、転々としながら細かい仕事を請けていたんだ。…そこで顔馴染みになった。」


ガルド「…そのあと、オレはロルダンの気まぐれで用心棒として雇われることになった。…あん時は、レータがかつての仕事仲間を集めて、ずいぶんとどんちゃん騒ぎしたもんだ。」


ガルド「…それから数年後。あいつもテイタムレッケで働くことが決まったんだ。」

レド「キールバン地方の…。」

ガルド「ああ、キーダ分校での補助員の仕事だった。」

レド「あそこは…。」

ガルド「もう1年が経つか。…お前も知っているだろ。」


ガルド「“ダイガナの牙”がキーダを襲撃したんだ。」

レド「…キールバン地方に勤務する文院の文律師も、対応に当たったと聞いています。」

ガルド「…悪い予感がした。オレはギャヴを走らせて、無我夢中に向かった。」


ガルド「すると、どうだ。……あいつ、死んじまいやがった。」

レド「…。」


 ガルドの手は、剣の柄を握りしめていた。


ガルド「…文院が…殺したんだ。」


ガルド「おかしいだろ?…本来、賊の鎮圧に現地領の兵士や分校の文律師、それに文院の文律師が手を組まなきゃならないはずだ。」

レド「…な、なぜ…?」

ガルド「……こっちが聞きたいぐらいだ。」


レド「…キールバン地方にいる文院の者なら、だいぶ絞られるはず…」

ガルド「いや、そいつはもう居ない。」

レド「…調べたんですね?」

ガルド「…ああ。その特徴の男は、どうやら違う場所へ移ったらしい。」


ガルド「…そのガナックとやらに会ったら、必ず聞き出す…。」

レド「……。」


 レドは、窓を閉めたあともしばらくそこに立っていた。

 その背中は、もう他人のものには見えなかった。


続く


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