【第14話 出発】
――数日後。それは静かな朝だった。
テスが、手一杯にパンを持っている。
テス「おい。ここまだ入るか?」
レド「…これ以上は、もう入りません。」
レドは膨らんだ鞄を重そうに肩へ掛ける。
ガルド「…準備は、いいな?」
ファーボ「まさか、ガルドも一緒に行くとはのう…。」
ガルド「……まあな。」
テス「…無茶するなよ。お前は、そういうところがある。」
ガルド「ああ。当たり前だ。」
テス「…お前もな、レド。」
レド「……はい。」
レド「薬草も、こんなに頂いて…。」
ファーボ「…備えあれば患いなし、じゃ。」
玄関の扉からロルダンが出てくる。
ロルダン「…持っていけ。」
レド「!…頂けません。」
ロルダン「よく見ろ。大した金じゃない。…食いっぱぐれない程度だ。」
レド「ですが…」
ガルド「おっ、さすが領主!もらっておけよ。」
ロルダン「ガルド…お前への手切れ金としてもいいぞ。」
ガルド「オレがいないと困るだろ?」
ロルダン「馬鹿言え。…貴様の代わりなど、いくらでもいる。」
ロルダン「…帰って来い。おつりはその時に返せばよい。」
ガルド「せこっ。」
レド「……すみません。」
ロルダン「違う。そこは“ありがとう”だぞ、レド。」
レド「…あ、ありがとうございます。」
テス「…こんな時に、ジザはどこにいるんだ?」
ロルダン「あいつめ…。」
ファーボ「ジザさん。」
視線はそっぽを向いたまま、玄関からジザが出てくる。
レド「…ジザさん。」
ジザ「……。」
ジザは乱暴にレドの鞄に折りたたまれた紙を押し込んだ。
レド「…今のは、紙文律ですか…?」
ジザはレドの顔を一瞬だけ見ると、すぐに背中を向けた。
レド「…ありがとう、ジザさん。」
テス「…時間だ。日が落ちる前に出ろ。」
ガルド「そうだな。今日中にはカイクングス領は抜けておきたいしな。」
レド「このご恩は、必ず…」
ガルド「お前は、いちいち堅いんだよ。肩が凝るわ。」
ガルドが愛馬の手綱を引く。
ガルド「行くぞ、ギャヴ!」
レド「……行ってきます。」
ロルダン「ああ。行ってこい。」
レドは振り返らず歩く。
背中に残る視線が、妙に温かかった。
――ミレンハーセまでは、まだ遠い。
続く




