【第10話 舞い降りる刃】
ミルザ「…発現。」
レドから向かって左、館の塀が爆音とともに崩れる。
地面に衝撃波が走る。
遅れて地面を激しく割りながらレドに向かってくる。
レド「(…紙文律…!)」
レドは前方に駆けだし、その隆起を間一髪で前転してかわす。
レグナス「(ミルザ、うまくやった。)」
レド「!?」
レドは気配を察知した。
右、左と素早く見渡すが姿は無い。
レグナス「“ヴァイラ”…。」
レド「(上!?)」
高所から文律によって空中移動したレグナスが高速でレドに接近する。
両手に握った剣を勢いに乗せて振り下ろす。
レド「“ランバー”!」
強く擦れた衝撃音と風圧が周囲に響く。
レグナスが振りぬいた剣は、レドの数センチ前で止まるが、
腕力と文律が拮抗しているのか小刻みに震えている。
レグナス「(…奇襲を防がれたか。だが…)」
レド「!…くっ!」
次の瞬間。
館の扉が勢いよく開く。
――ガルドだ。
レグナス「!」
ガルドの渾身の一撃。
レグナスは、バックステップで勢いを殺しながら何とか受け切る。
間髪を入れずに、2階から弓矢がレグナスの耳をかすめる。
ベランダから屋根に出ていたテスの姿があった。
ガルド「ちっ!」
テス「外した…!」
レグナス「……。」
レド「……レグナス。…あっちは、ミルザか。」
レグナス「…やはり、レド…生きていたか。」
レド「……彼らに手を出すな。」
レグナス「…お仲間は、やる気十分だが?」
レド「…。」
レグナス「貴様ら。文院の仕事を邪魔する意味を、わかっているのか?」
ガルド「へっ。…お前らこそ、ここがデインラムってことを知ってんのか?」
レグナス「用心棒風情が…図に乗るなよ?」
レグナスは右手で剣を握りなおすと、片足を前に出して構える。
ガルド「おい、レド。こいつはオレに任せろ。」
レド「…?」
ガルド「…こいつの方がやりやすそうだ。…お前は、あの女をやれ。」
レド「…ガルドさん、気を付けてください。」
レグナス「そうだ、レド。…ドレヴァ様が会いたがっているぞ?」
レド「…!」
レグナス「大変に落胆していた。お前には、かなり期待していたんだ。…わかるだろう?」
レド「……しゃべるな。」
崩れた塀の向こう。
ミルザがエンボルを左手に溜める。
低木に隠れているジザは、その姿を捉えていた。
ジザ「(…あの女、会話しているレドへ攻撃するつもりね…。)」
ジザ「(作戦通り…今なら、隙を突ける!)」
ミルザ「(いいぞ、レグナス。…そのままもう少し時間を稼げ…今のうちに…。)」
ジザ「!?」
ジザは、その時ようやく気付いた。
ミルザの視線が、いつの間にかジザに向けられた。
ミルザ「“ドライン”!」
ジザ「!!」
大きく練られたエンボルは、カナエによってさらに集束され、
赤く染まった炎弾がジザのもとで爆破した。
爆風に飲まれ、ジザの体が視界から消える。
――爆風の残響だけが、遅れて耳に届く。
レド「!」
ガルド「ジザ!」
――返事はない。
レグナス「…やはり、潜伏していたな…文律師。裏口から回っていた、という所か。」
レド「(…配置がバレている…。)」
レグナス「おい、剣士。…お前から片付けてやる。」
レグナスは斬りかかる。
ガルドはそれを払い、斬り返す。
両者、互角の太刀の応酬。
テス「…(2人の距離が近すぎる…。これでは、攻撃できない…!)」
レグナス「(2階の弓使い。この男と接近している限り、警戒する必要はないな。)」
ガルド「ちいっ!」
テス「数はこちらの方が上のはずだ…!」
レグナス「…ようやく、本気を出せるな。」
レド「ジザさん…!」
レドはミルザへ歩き始める。
――駆けることもなく、静かに。
だが、躊躇のない歩みだ。
足音だけが喧騒としたこの場所で、やけに大きく響いた。
レド「…ミルザ、お前…。」
ミルザ「…一騎打ちなんて、光栄だわ。」
レド「…来い。」
ミルザの額から汗が滴っていた。
その視線は、一瞬たりとも逸れない。
ミルザ「…怖いわね、あなた。」
続く




