21、 ラジオ放送
カーク市郊外、旧基地跡を間借りした第666特別大隊の駐屯地は、夕暮れの赤に包まれていた。
だが、朝ここにようやく入った時の安心感はなかった。
基地の門をくぐったスカイ・キャリアベースは、早々にその異変を察知する。
「……なんだ、騒々しいな」
目に飛び込んできたのは、ざわつく少女兵たちの姿。
顔を強ばらせ、数人が一台の軍用ラジオに群がっていた。
「――殿下!」
声を上げたのは副官のエリザベスだった。血相を変えた彼女が、駆け寄ってくる。
「ちょうど良いところに。これを、ラジオを聞いてください!」
訝しげにスカイは耳を傾ける。
ノイズ混じりの音声の向こうに、女の声が響いていた。勇ましい声は何度か聞いたことがある。確か反政府軍のプロパガンダ放送を読み上げるキャスターだった。
「本日、我ら革命政府は、カーク市に立て籠もる反乱軍――旧体制政府の残党を粛清すべく、追討軍の派遣を決定しました。構成は精鋭部隊を含む正規兵三万。これは敵勢力の三倍にあたります――」
基地内の空気が一気に凍りついた。
「カーク市には憎むべき王家の生き残りであるクラリーチェ・ヴァレンティア少将、および、ニーナ・ヴァレンティア大佐。そして「悪魔の鳥」こと第666特別大隊を率いるスカイ・キャリアベース少佐相当官が、空しい抵抗を続けております! カーク市の門前に彼女達の首が晒される日も近いでしょう!!」
「……スカイ。名指しで討伐対象扱いされてるけど」
流石に危機感を隠せないレベッカ。辛うじて、アリスが軽口を一つ。
「良かったじゃん、スカイ。これで有名人だよ」
「いや、今の状況でジョーク言われても笑えねぇよ……」
スカイの脳裏では、冷静に地図と兵力差がはじき出されていく。
1万対3万
しかも、こちらは疲弊している。
詰みだ。これ以上なく、見事なまでの――
「……なぁ、ネクロディア」
頭の中に、そっと声をかける。
精神の奥底、黒い影が、楽しげに囁き返してきた。
「なに? 急にしおらしくなっちゃって、気持ち悪いな♡」
「いや、その……影姫様?」
「やめろ、ぞわっとした」
スカイは苦笑交じりに本題を切り出した。
「さっき言ってたチートの件なんだが……その、まだ間に合うか?」
言いながらも、どこか自分のプライドがチクチクと痛む。
だが、状況は切羽詰まっていた。今この瞬間にも、三倍の敵がこちらへ進軍している。
「ふ~~~ん」
ネクロディアは、まるで退屈しのぎのような口ぶりで言った。
「でもスカイ君、さっき自分で言ったよねぇ?「邪神との契約なんてろくなことにならない」って」
「……それは……」
「ついでに言うと、私のこと「陰キャ姫」って言ったよね?……あの煽り、結構イラっときてさ。怒ってるんだわ。だ〜〜〜〜〜〜め!チートなんてあげな〜い♡」
「……あああああああああああ」
頭を抱えるスカイに、少女のような声でケタケタと笑い声が響く。
「残念でしたぁ♡ 拒否したのはスカイ君だもんね〜〜〜♡ ま、レベッカちゃんやアリスちゃん辺りを生贄にしてくれるなら考えてあげても良いよ〜♡」
「くっそおおおおおおおおおお!!!!絶対に出来ないって分かってて言いやがってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
駐屯地の空に、スカイの叫びが木霊した。
だがそれでも、周囲の少女兵たちは誰も振り返らない。
なぜなら彼女たちもまた――目の前の現実に、顔面蒼白になっていたからだ。
そして遠く、戦火の匂いが、ゆっくりと風に乗って漂ってきていた。
さーて、次回の666大隊は~?
スカイ・キャリアベースだ。何度か出て来た俺の階級、少佐「相当官」。違和感を覚えた読者も多いんじゃないか? ま、平たく言えば、表向きは「若き英雄!第666特別大隊指揮官!」とか煽っときながら、
内実は――
軍務局「こいつ、軍人じゃねぇから正式な階級は無理」
研究班「でも死なれたら困るからある程度の指揮権は欲しい」
作戦司令部「じゃあ『相当官』って書いときゃええやろ」
っていう、完全に政治的事情で捻じ曲げられた肩書き「少佐相当」って、要するに擬似階級なんだ。
つまり、「お前は現場では少佐扱いするけど、正式な名簿には載らないよ♡」
ってことじゃん。人権はないけど、責任はあるよ! ってことじゃん!やっぱこの国、ろくでもねぇ……。
貧民街でレベッカと結婚して、子供作って、母さんとも良い感じに和解して、たまにブルセラショップ通いがバレてレベッカに怒られる、みたいな平凡な人生を歩みたかった……。
さて、次回の666大隊は、
「戦う? それとも夜逃げする?」
「決戦!VS追討軍!」
「水鳥の羽ばたき」
の三本だ。次回もまた見てくれよな!
……何?平和な学園世界線は姉上ズ回だと?




