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23、死刑判決

 夜。反政府軍の仮設司令部のテントには、煙草と疲労の臭いが充満していた。


 ここにいるのはカーク遠征軍の主要な指揮官達。その中で長机の端、主座に座る男が重く言った。


「……橋を渡るしかない」


 総司令官、ジョージ・クライムズ大将。


 声は震えてはいないが、その手は握りしめて白くなっている。


 沈黙を破ったのは、現地付け参謀のボロー大佐だった。

 

「バカな!?」

 

 あまりにも即答だった。

 

「車列詰まるのは分かってる! 橋を渡った瞬間、動けなくなります!」

 

「後方の参謀本部作戦局長のロバート少将は、予定通り攻勢を実施せよと一点張りだ」

 

「だからって……!」

 

 言葉が詰まる。詰まるしかなかった。

 

 その瞬間、椅子を蹴るように立ち上がったのは、第55機甲師団のバーンズ大佐だ。

 

「撤退すべきだ! 我々は燃料切れで半分以上の車両を捨ててきたんだ! 戦車兵が歩兵やらされてるんだぞ!? これ以上前に出たら――」

 

「撤退?……許可が下りると思うのか?」

 

 ぼそり、と呟いたのはアウグスト・ギルフォード少佐。第98歩兵大隊の指揮官。


 反政府軍においては高潔な人物として名を知られていたが、その目はとうに光を失っていた。

 

「あれだけ大々的に宣伝した作戦だ。『悪あがきする最後の王族達にトドメを刺す!』と銘打って各地で士気鼓舞。今更『何の成果も得られず撤退します』で済むと思うか?」


 全員の視線が机に落ちる。

 

「……………………」

 

 沈黙の音が聞こえる気がした。


 誰かが露骨にため息をついたが、それすら咎められなかった。

 

 ようやくウェルマー・J・カールソン中佐が口を開く。

 

「敵が……罠を張っている可能性は?」

 

 質問というより、祈りのようだった。

 

 その祈りを無情に断ち切る声。

 

「……多分、というか確定で張ってます」

 

 声の主はセラフィーナ。第13旅団の旅団長。実際に先ほど最前線を視察してきた張本人だ。


 その声には、恐怖も混乱もなかった。ただ、淡々と。


「トーチカ化した機関銃陣地と……砲台が橋を狙っています。望遠鏡で確認しました。橋を渡ろうとすれば、その瞬間に十字砲火で出迎えられます」  

 

 誰もがその言葉に一瞬だけ息を呑む。しかし、すぐに視線を逸らした。


 この作戦は反政府軍の負けだ。


 ――だが、認めたら終わる。


「……なぜ上層部は撤退を許可しないんです? 報告は届いているはずです」


 最年少であるマリリン・H・ドッペルブリッツが思わず掠れた声で問う。そして、その言葉を誰も咎めはしなかった。皆本音は同じだったからだ。


 ボロー大佐はゆっくりと天井を見上げ、わずかに笑った。


「……空気、ですかね」


 その場にいた全員が、信じられないほど生気のない目をした。


 ああ――それだ。


 撤退する空気じゃない。命より面子の政権なのだ。そういうことだ。


「…………先陣は第31歩兵旅団に任せる」


 ジョージ大将が静かに宣言した。


「は?」

 

 一瞬、時間が止まった。やがて、まさに第31歩兵旅団長のウェルマー中佐が震える声で繰り返す。

 

「……は?」

 

「貴官の部隊は大変勇猛果敢と聞いている。先陣を任せるに値する」

 

 言葉は褒めている。しかし、視線はすでに彼を見ていない。


 ――最前列で死んでこい、という意味だ。

 

「待ってくれ! うちだって行軍でボロボロだ! 部下達は疲弊して――」

 

「攻撃開始は明日の0400。健闘を祈る」

 

 静かに、だが無慈悲に。応じたのは他の将校たち。


「異議なし」

 

 その声に迷いはなかった――自分が先陣じゃない限り。

 

 セラフィーナは哀れみを込めた目で、マリリンは同時を込めた目で、ウェルマーをチラ見する。凶暴な戦い方で政府軍から、更には反政府軍の中でさえ恐れられた、山賊を思わせる男の顔は、絶望に沈んでいた。

 

 そして、ウェルマーはふらふらと椅子から立ち上がり、ゆっくりと軍帽を被った。

 

 その顔は笑っていた。が、同時に恨みとも虚無ともつかない色を宿している。

 

「……把握した。うちの隊は嫌われ者だからな。……手柄を立てて見直させてみせよう」

 

 その声はもう、死刑を言い渡された咎人の様だ。

 

「噂によると――敵軍には、かの666大隊もいるとか。女学生学徒兵部隊。大変、見目麗しい令嬢達が多数所属しているという」

 

 彼は皮肉っぽく薄く笑い、顔を歪めた。

 

「――略奪するのが楽しみだ。…………生きて橋を渡れればな」

 

 その下品なブラックジョークを誰も笑わなかった。笑えるはずがなかった。

 

 その瞬間、この場にいた誰もが、翌朝、第31歩兵旅団が略奪どころか、橋の上で虐殺されることを理解していたからだ。

 

 会議は終了した。

 

 誰も立ち上がらないまま、灯りだけが消えた。

ここまでの簡単な流れまとめ


王都落として革命成功!やったぜ!と思ってたら、揃いも揃って王家と貴族制憎しで戦後の事を考えていなかった為、統治と配下の統制ができずに即リアル北斗の拳状態に。

↓

王都陥落から5日後にクラリーチェ姉貴が電波ジャックして徹底抗戦演説ぶっこむ

↓

大慌てで追討軍編成&派遣。準備期間一週間。

↓

案の定途中で補給線伸び切って死の行進開始。追討軍、カーク目前ですでにボロボロ。  

↓

追討軍が渋滞起こしてる間にクラリーチェ派はジフ川に陣地構築。もはや要塞。

↓

その間に反政府軍はプロパガンダをガンガン打つ。ここで何もせずに尻尾巻いて逃げたらメンツが糞まみれ確定。

↓

やってる感と正々堂々戦って負けたという言い訳作りの為に前線で無謀な突撃作戦が採択される(今ここ)


……この生々しい無能さよ

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