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18、衝撃の事実

 カーク市の郊外にある駐屯地の一角。そこでは、少女たちの静かな時間が流れていた。


 スカイ・キャリアベース率いる第666特別大隊は、カーク市到着後、ようやく一時の休息を許されていた。部隊を束ねる少年指揮官は現在、各部隊や司令部への挨拶回り中で、その間、少女兵たちは久しぶりの自由時間を過ごしていた。


 その中でも、666大隊に与えられた部屋の片隅に集まったのは、貴族出身のメンバーたちだった。


「……というわけで、うちは代々王党派でな」


 堂々と胸を張って語るのは、コーモラント隊所属のエレナ・ハインド。先ほど、久しぶりのシャワーを浴びて、若葉のような緑髪の艶を復活させた彼女は、いつになく真面目な語り口だった。


「思想的には王家に忠誠を誓うのは前提として、推しと決めた王族に激重感情を注ぐのが通例でな。判官びいきも相まって、不遇な王族に特に萌える傾向が強い。で、まあ……自慢話になって恐縮なんだが、そのまま忠誠誓ってるうちに、恋愛関係になって子供ができて……ってパターンが多くて、我が家には割と濃いめの王家の血が流れてる」


「出たー、名門貴族あるある血筋マウント」


 アリス・アリゲーターがわざとらしく大げさに嘆く。


「貧乏男爵家出のアリスちゃんに対する当てつけかよ。私はエレナをそんなことする子に育てた覚えはありませんよ!」


「いや、育てた覚えはないだろ」


 ジュリア・ハリアーが笑いながらツッコミを入れた。戦場においては鬼神となる彼女も、ようやく安全地帯に入れた今は緊張の糸がほぐれている。


「ていうか要するに『王族推しに恋して命を賭ける』っていう恋愛脳、あるいは超個人崇拝型王党派……それ、厳密には王党派って言えるのか……?」


「心の中で王党派を名乗っていたら、それは王党派なんだよ。ガブリエルを見てみろ。貧農出身なのにあんなに殿下を崇拝している。あれを王党派と言わずに何という」


「なーんか、哲学的な話になってきたなぁ」


 そう言うのはメイジー・ベアキャット。ヴァルチャー隊の一員で、観測手。いつもは相棒のシモーヌとつるんでいることが多いが、今はアリス達との会話に加わっていた。


「で、たまーにうちの家系の中でバグ個体が出るんだ。不遇王族じゃなくて、没落貴族に萌える奴とか」


 エレナは何気なく言ってのけた。


「たとえば……うちの母親、ジュリアの父親の妹だし、婆ちゃんはアリゲーター家の一門の娘だ」


「えぇ……。私とエレナ、親戚同士?」


 アリスの目が素で驚いていた。


「ファッ!? 私、あんたと従姉妹じゃん!」


 ジュリアが爆笑しながら身を仰け反らせる。


 その様子を、微笑ましく見つつメイジーが呟いた。


「まあ、貴族なんて政略結婚しまくりで大体どこかで血が繋がってるし。うちも親戚めちゃくちゃ多いしね。オーガスタ、シモーヌ、クラウディア、エスペランサ……ほとんど親戚」


「キャット一族は顔が広い事。……でもこいつら政略結婚してないじゃん!? 純度100%のデキ婚家系じゃん」


 アリスが思わずツッコむと、エレナは少しむくれて返す。


「デキ婚家系とか言うな。せめて授かり婚と言え」


「でも実際そう見えるんだよなあ」


 苦笑するジュリアをよそに、メイジーがふと思い出したように言った。


「そうそう、意外なところで言うと、ルーシーとロレッタって従姉妹同士なんだよね」


「……つまり実質ロレッタは、私の死んだ妹の生き写し……?」


 それまで遠巻きに見ていて、自分の名前が出たことで話に加わってきたルーシー・フォックスバットが、ぽつりと呟く。


 場の空気が一瞬、しん……と静まり返る。彼女の妹が王都陥落以降、生存が絶望視されている事は皆知っている。


「ほら! ガチでお辛い設定の人出てきちゃったじゃん!!」


 アリスが慌てて声を張る。だが、ルーシーは良いことを思いついたかの様に声が明るくなった。


「いや……でも、隊長と皆で結婚すれば年下の子は皆、妹か!」


「そうだよ……この子、クリスティーナ派だよ……ハーレム至上主義者だ!」


 アリスはそう言って頭を抱える。


「うんうん。ロレッタだけじゃなく、ここにいるのは皆家族!そのためにも生き残って皆で隊長と結婚しようね!」


「さすが督戦隊。私やエレナみたいなヤンデレの前でそれを言えるのは大した度胸だわ……」


 だがそれでも、少女たちはどこか楽しげに、少しだけ切なげに笑っていた。


 それは、戦火の中で紡がれた奇妙な縁。それでも確かに血と心で繋がれた、彼女たちのもう一つの「家族」の姿だった。


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