17、フライングアイドル
カーク市郊外の第二ヘリ旅団臨時飛行場。簡素なハンガー群と、軍用ヘリが並ぶその空間に、不釣り合いなほど明るい音楽が流れていた。
「……なんすか? あれ」
スカイは、歌声が聞こえてきた前方の広場を指差した。
そこでは数十名の兵士たちが、手足を伸ばしてラジオ体操の真っ最中だった。ただし、流れている音声が異様だった。
「いーち、にー! さん、しー! ごー、ろく!」
可憐かつよく通る女性の声が、スピーカーから元気よく流れていた。明らかに生録音、しかも……。
「……これ、ニーナ姉上の声じゃないですか?」
スカイの視線の先では、屈強な整備兵たちがノリノリで体操をしている。中には感極まって目を潤ませている者までいる始末だ。
「……あー、うん。そうね。私の声だわ」
背後で苦笑したのは、パイロットスーツ姿のニーナ・ヴァレンティア大佐。長い黒髪をストレートヘアにした彼女は、まるでこの混沌を楽しんでいるかのように見えた。
「……私、元々ね、軍人になるか歌うたいになるかで迷ってたのよ。最終的に軍学校行って、ここに配属されたんだけど……ある日、余興でちょっと歌ったら、整備班の子たちがなぜか号泣して。それからね、アイドル扱いされるようになっちゃって」
「えぇ……いや、俺も人のこと言えた義理じゃないですけど、姉上も大概ですね」
自分に心酔する666大隊の面々を思い出しつつ、スカイは言う。
「今じゃ朝の体操まで私の録音音声よ? 出撃時なんて、機内無線から私の歌が流れてるのよ。……もう半分呪いの歌声なんじゃないかって思ってる」
ニーナが肩をすくめた瞬間、不意に鋭い声が背後から飛んだ。
「違いますともッ!!」
「うおっ!? 誰!?」
突然の登場に俺が身構えると、そこに立っていたのは黒いフライトスーツを着た青年。精悍な顔立ちと、輝く眼差しが印象的な青年は、力強く拳を握りしめていた。
「ニーナ様の歌声は、天からの恵み! 癒やしと鼓舞の奇跡! 呪いなどでは決してありません!」
「……あー、紹介するね。うちの副官で、エースパイロットのマイク・ハインド君。私の乳きょうだいで、幼馴染でもあるよ」
「マイク・ハインド大尉であります。ニーナ様のファン第一号でもあります!」
マイク大尉はきらきらと目を輝かせたまま、ビシッと敬礼した。
「ニーナ様は、この世に舞い降りた女神! そのお声は地上を癒す祝福の風! スカイ殿下も、そうお思いでしょう?」
「……いや、まあ……ええ、そうですね」
「一応、殿下の麾下の666大隊所属のエレナ・ハインド嬢やアンヌマリー・シーキング嬢とは親戚関係でもあります! 以降お見知りおきを!」
「あぁ。……そういえばアンヌマリーもエレナと親戚筋とか前に言っていたな……」
スカイは苦笑いを浮かべつつも、内心では「またハインド家か……」と頭を抱えていた。
(なんでこの家系、王族に萌える変な人しかいないんだ……。いや、うちの部隊も大概だけど)
その時、頭上をこの部隊のヘリコプターが編隊飛行しながら通過していった。おそらく訓練飛行だろう。
きっとあそこには、今日もニーナの声が響いているのだろう。
天からの恵みか、はたまた呪いか。
それを判断するのは、今日も空を飛ぶ兵士たちだ。
設定資料
これがニーナ率いる第二ヘリ旅団のエース達だ!!
第二ヘリ旅団のネームド隊員図鑑(今後登場するかは分からないが、設定だけ存在)
TAC パラソル マイク・ハインド 男 筆頭格。ニーナの乳兄弟で幼馴染。ニーナにとってのレベッカ。戦果も1位で筆頭格である事に誰も文句はいわない。
TAC アーチャーフィッシュ マイケル・マーティン 男 テッポウウオの名の通り、ロケット弾による長距離攻撃が得意。 他隊員曰く「奴はロケットで狙撃する」
TAC メイス エリック・シューティ 男 ティモシーの兄。弟との連携攻撃を得意とする。
TAC ハンマー ティモシー・シューティ 男 エリックの弟。彼が前衛役。
TAC シュガー スティーヴ・ローズ 男 自衛用の空対空ミサイルで戦闘機(反政府軍のミグ21)を返り討ちにした武勇伝をもつ。戦闘中に常に飴やガムを口に入れている。
TAC カッパ コディ・ジャクソン 男 カナラ川の戦いで反政府軍の渡河作戦をミニーと共に二機で頓挫させた。
TAC セイレーン ミニー・ヤマダ 女 コディとは恋仲。2人でニーナを推す。
TAC レーザー スーザン・スペンサー 女 速度特化のカスタムがされており一撃離脱で多数の戦果を挙げた。
TAC キャットイヤー ケイト・ブラウン 女 猫耳ヘッドホンを愛用し、いつもニーナの歌を聴いている。
TAC ギロチン カーリー・R・コーヴ 女 機関銃の名手で戦車の天板を的確に撃ち抜く。




