8、合流
「ジャーネイルだ!」
「生きてたの!?」
「どこ行ってたのよ!」
「怪我は?」
「水、水持ってこい!」
「隊長に知らせろ!」
「おい誰か毛布!」
隊員達は堰を切ったように急に動いた。
それまで焚き火の前で死んだ魚みたいな目をしていた隊員たちが、少しだけ『生きてる人間』になった。
「ジャニー! お前生きてたのか!? どこ行ってたんだよぉぉぉ!」
いの一番に駆け出したのはジャーネイルの姉である、エマ・フィッター。ウッドペッカー第3小隊の観測手の少女兵だった。
すぐに妹を抱きしめる。貧民街生まれの豪胆な娘であったが、今日は涙で顔がくしゃくしゃだった。
「へへ……初日に無我夢中で逃げてるうちに迷子になっちゃって……」
ジャーネイルの方も姉や仲間達と再会できて安心したのか、姉と涙を流して抱き合っている。
「……よく生きてたわね」
「どうやってこの大隊の場所を?」
次いで彼女を抱擁したのは、彼女の隊の戦友であるヴァイオレット・ヴァレンティア・リーパーとブリジット・ホークアイである。
「こちとら偵察兵だよ。サバイバルには慣れてる。それに、隊長ならここに行くって目星つけて、夜営の痕跡を辿りながら。焚火の明かりを見かけたからもしかしたらって近づいたら……ビンゴ!」
「流石偵察兵、私の部下ね!……ほら、ウェルカムドリンク! ゆっくり、ゆっくり飲みなさい」
彼女の上官にあたるオウル偵察隊の中隊長のマリー・ホーネットはそう言うと彼女に水筒を差し出した。
言われた通り、ゆっくりと水を口に含むジャーネイル。
「美味い……こんな美味い水は初めて飲みました……!」
「ここ、コロモ村名物の古井戸水よ。煮沸消毒した分はまだあるから、いくらでも飲みなさい」
「ありがたい……」
***
少し離れた位置で騒ぎを見ているのはオードリー達、ウッドペッカー第2小隊だった。
「……脱走、では無さそうね。マジで迷子になってたパターン。それにジャニーは仲間捨てて逃げる様なタマじゃないよ」
イヴリンはオードリーに言う。流石にここで脱走を疑うのは空気が読めていないと思っての事だったが、オードリーは沈黙している。
「オードリー姉?」
心配したようにルーシーが声をかけた。だが、まだ無言のまま。
訝しんだ二人がオードリーの顔を見ると、彼女は無言のまま、涙を流していた。
「私は今、感動している……」
「え、ガチ泣き……?」
困惑するイヴリンにオードリーは言う。
「4日間。今まで逃げる奴しかいなかった。200人だぞ……200人が家族を捨てて逃げた」
「……うん。オードリー姉の予想通りになった」
「……そんな中、私達の元に帰ってきた奴が出た……。これに感動せず、何に感動すると言うんだ……」
オードリーはジャーネイルを見ながら、しばらく無言で涙を流していた。顔はこの4日間では1番穏やかな顔だった。
そのうち、彼女は『妹』2人に命ずる。
「あいつらは今再会で忙しいだろう。私達で何か食い物を作ってやろう。……パン粥が良いな。イヴリン、ルーシー、手伝ってくれ」
「「了解!」」
***
スカイもすぐにジャーネイルの元にやってきた。
「ジャーネイル……。よく生きていたな。再会を嬉しく思うよ」
「ジャーネイル・フィッター、ただいま帰還いたしました。再着任の許可を、隊長」
「再着任を許可する」
2人は形だけして敬礼し合って、すぐに笑い合った。
彼女の帰還はこの4日間で唯一の明るいニュースと言っても過言では無かった。
「こんな言い方はなんだが、逃げずによく戻ってきてくれた。君の忠誠は、千里を越えて主のもとへ帰った蜀の関羽に匹敵する」
そう言うとスカイはジャーネイルの手をしっかりと握ると、蠱惑的な微笑みを浮かべる。
自他共に認める美形の王子の笑みに、ジャーネイルはたちまち顔が真っ赤になった。
「い、いえ……私は1人で死ぬのが怖かっただけで……」
「謙遜しなくて良い。君の忠義、たしかに見届けた。……引き続き、俺とこの大隊という疑似家族にずっとついてきてくれ」
カリスマをのせたスカイの妖艶な笑み。
それを至近距離で浴びせられたジャーネイルは疲労困憊といった状態ながらも、完全にスカイに心酔した目になっていた。
「はい! 隊長は私達貧民街生まれにとっては憧れですから! 最期までお供させていただきます!」
「よし。今後とも期待しているよ。……さあ、飯にしよう! ジャーネイルの分はオードリー達が作っている」
スカイはそう言って場を離れたが、ジャーネイルはうっとりとした瞳でスカイを事を追っていた。
「……殿下の悪い癖ですよ。気に入った女の子をすぐに囲い込もうとするの」
少し離れた所で、参謀のエリザベスがスカイに小言を言った。だが、スカイは軽くそれをいなす。
2人は歩きながら話した。
「俺は彼女に感謝を伝えただけだぞ?」
「……やり方がまずいんですよ。なんですか、あのやり方。ホストのやり口ですよ。何人の女の子があなたの顔に人生狂わされたと思ってるんですか」
「そんな大げさな」
「この大隊の残存したメンツを考えてください。個人的にあなたに執着してる子ばかりですよ? あなたが死んだら後を追う様な子ばかりです」
「モテる男の業だな」
「ほら、都合悪くなると軽口に逃げる。今どういう状況か分かっておられますか?」
エリザベスの言葉に、スカイは立ち止まる。それから一呼吸置いて口を開いた。
「………辛い時こそ。軽口でも叩いて余裕を見せなきゃな。俺が不安がっていたら皆にも伝染する」
「…………」
「ま、とりあえず夕飯にしようぜ。腹が減っては戦はできぬ」
スカイはそう言って話を打ち切った。エリザベスはそっと耳打ちする。
「食後、また声をかけてください。大事な話があります」
「色っぽい話だと嬉しいがね」
「残念ながら、物資の話です」
「…………」
スカイは大きくため息をついた。視線の先には補給隊から夕食の配給を受け取る隊員達の姿があった。




