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7、生贄

「いや……自分たちが壊れていることを、もう誤魔化せなくなったのがブラッディ・ダラだった、かな?」


 アリスはそう言って、焚き火の中に新しい枝を放り込んだ。


「……」


「……」


「……」


「……」


 4人とも、次の言葉が出なかった。


 あの戦い以降、第666大隊はそれまで以上に激烈な戦場へと送り込まれていった。666大隊自身も苛烈になっていった。


 その結果、当初は1000人ほどいた兵力は、今やわずか100人。つまり、たったの十分の一にまで減ってしまったのだ。約700人が戦場に消え、約200人は、もうこれ以上この大隊についていけない、と王都陥落時に消えた。


 スカイを除けば、兵員のほぼすべてが女学生という異例の学徒兵部隊だった。


 当初は誰もが嘲笑した。


「銃を握った女子供に何ができる?」と。


 しかし、現実は違った。


 ダラだけで3800人。一年間で、666が直接・間接に出した敵軍死者は気づけば2万人を超えていた。


 沈黙を破ったのは、アリスだった。


「思うに、この部隊って元々はプロパガンダ用だったんじゃないかな。確かにフーイ村の戦いみたいなのもあったけど、あれだって殿軍を務めていたファルコン隊がヘタレなければ、ちゃんと安全に撤退できる戦いだったんだよ」


 あの時、転進の途中。貧民街出身の多いファルコン隊の隊員たちは、止めようとした中隊長のポーリンを殺害し、スカイの幼馴染であるレベッカ・シューティングスターを除いて一斉に脱走。結果、追いついた敵の追撃部隊と血みどろの戦闘に巻き込まれてしまった。


「スカイだって確か、元は貧民街育ちだったよね。それが陛下の隠し子が貧民街で生きてたって発覚して、あれよあれよという間に『貧民街出身の王子、帰還! 戦乙女たちを指揮!』って祭り上げられて、この部隊の指揮官に収まっちゃって……」


「……つまり、666大隊は本来は見た目重視の飾り部隊だったってわけ? それが何の因果か、やる気の無い政府軍の正規部隊をしのぐエースになっちゃったって事?」


 焚火の火を弄りながらエレナが静かに言った。だがアリスは首を振る。


「ただ……そうだとしても変なことが多いんだよね、この部隊。いつも最前線に投入されてるし、ブラッディ・ダラだって、いくらなんでも過酷すぎるだろ。まるで本当に『生贄』みたいだ」


 ま、今更だけど……そう呟き、アリスはため息をつき、焚火のそばにごろりと横になった。


「まったく……変な奴らばっかりよくも99人も残ったもんだよ。皆、さっさと逃げちゃえばよかったのに」


 不満げに吐き捨てるアリスに、エレナが静かに、だが、はっきり反論した。


「私は、裏切って逃げた奴らは許せないな」


 何度も言うように、王都脱出時には約300人いた大隊員のうち、三分の二が既に姿を消していた。オードリー達やエレナが2、3人撃ち殺して止めようとした所で、恐怖で止められるものではなかった。そしてエレナにとって、それはまさに『スカイへの裏切り』だった。


「違うよ、エレナ。みんなが一斉に逃げちゃえば、スカイは私が独り占めできたって言いたいの!」


 アリスの瞳からハイライトが消え、どこか諦めたような響きでそう呟いた。3人は苦笑する。


「何よ、いきなりヤンデレモードに入らないでよ……」


「逃げて良いって言われたって、何人かは絶対残るって! 隊長、人気者だし」


「私達、あの人に着いていったから、生き残った様なもんだしね」


「……けっ、身内ヤンデレに、エリザベスに、レベッカに……ライバルが多いなぁ。……ま、良いさ。恋愛の勝者ってのは最初に選ばれたやつじゃない。最期に隣にいたやつさ」


 そう言って、ぼんやりと4人は焚火を眺めていた。が、しばらくして焚火を囲っていた隊の一部が騒がしくなった。


「何だ? 敵襲か?」


 マルタが緊張した顔になる。今の666大隊に敵の追撃部隊に対応出来る戦力は無い。


「いや、そんな感じじゃない」


 フローラが訝し気にそちらを凝視した。すると、ボロボロの装備の隊員が1人、村の入り口の方、「コロモ村」と消えかけた案内板があった方向からヨタヨタと歩いてきた。


 疲労しきってはいるが、命に別状はないらしく、こちらへ手を振っている。それを確認した別の隊員は驚愕した様な、歓喜する様な、ともかく衝撃を受けた顔をしていた。


「ジャーネイルだ! 行方不明になっていたジャーネイルが帰ってきた!!」


 アリスは驚いた様な、嬉しそうな様な複雑な顔になった。


「……これで100人目だね。この期に及んでスカイに賭ける変な女の子」

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