7、告白
「以上が、残った兵士たちのリストです。私を含め、ちょうど百人。」
参謀のエリザベス・ラプターが、タイプライターで打った名簿を俺に差し出してきた。
「……よく百人も残ったもんだ。嬉しいが……物好きばっかりだな」
俺――第666特別大隊、大隊長スカイ・キャリアベースは、焚き火の明かりの下でその紙に目を通す。腕利きが多く残ってはいるが、それでもたったの百人だ。戦力と呼ぶにはあまりにも心許ない。
「まさに敗残兵ってところか。まぁ、この負け戦の中で俺についてくるのなんて、せいぜいレベッカと、アリス達と、エリザベスと、オードリー達くらいだけだと思ってたから、これは嬉しい誤算だが……」
「……殿下、士気が下がるようなことはお控えください。」
エリザベスが黒髪をかき上げながら苦言を呈する。
「そうだよ、スカイ! まだできることはあるはず!」
「ヤケになるにはまだ早いってば!」
脇から声を上げるのは、レベッカ・シューティングスターとクリスティーナ・ファルコ。
レベッカは紫髪をサイドテールにまとめた幼馴染の妹分。元ファルコン隊所属で、フーイの戦いで部隊が丸ごと脱走した中、唯一逃げずに後続に裏切りを知らせた。その際に口封じのために追ってきた元仲間を撃って、その経験は今も彼女の心に深い影を落としている。
クリスティーナは赤髪のボブカットで、機関銃部隊ウッドペッカー隊を率いる中隊長。
若干十四歳にして、各地を転戦し、ブラッディ・ダラでは発砲命令まで下した。その心身にかかる負荷は計り知れない。
どちらも、年齢に似つかわしくないほどの闇を抱えている……
……そして、それを背負わせた責任の一端は、他でもない俺にある。
「殿下、まずは落ち着いてください。水は村の井戸がまだ使えますし、食料も二日分は確保済みです。弾薬は……次の敵襲で尽きますが、補給車はまだ動いています。まあ、燃料切れも間近ですが、せめて遮蔽物にはなります。」
「つまり、備蓄は限界寸前ってことだな。」
「……はい。あまり慌てさせたくなかったので、できるだけオブラートに包みましたが。」
気まずい沈黙が流れる。レベッカもクリスティーナも口を閉ざした。
…………さて、どうしたものか。
「まあまあ、殿下、生存を諦めないでください。希望はありますよ!」
エリザベスがあえて明るい声で続ける。痛々しいほどの空元気だ。
「先ほど、オウル偵察隊第三小隊から連絡がありました。この近くに反政府軍の物資集積所があるとのことです。『おすそ分け』させてもらえば、しばらくは持ちこたえられるはず。残ったのは皆、一騎当千の古強者ばかりですし……名付けて、オペレーション・バンデット! 早速作戦会議を――」
「……もう、無理だよ」
俺の口から、自然とその言葉が漏れた。
「え……?」
「大隊を、解散する。」
「殿下……?」
皆の視線が俺に集まる。
「総員、傾注。」
俺は立ち上がり、焚き火を囲む残った仲間たちの中心へと歩み出た。
彼女らの目には、諦めと、それでも消えぬ闘志が同居している。
「諸君、既に薄々感づいているかもしれないが、我々の物資は尽きかけている。……この先にあるのは、飢えと渇きと、死だ。よって……本日をもって、第666特別大隊を解散する!」
息を呑む音が、夜気の中に静かに響いた。
「こんな地獄に君たちを巻き込んでしまった……勝てなくて、すまなかった」
次に飛んできたのは、怒号と抗議だった。
「大隊長、まだ戦えます!」
「撤退しただけです! まだ我々は戦えます!」
「お願いです、続けさせてください!」
彼女らの叫びは、まるで自分の居場所を奪われまいとするかのようだった。
「黙れ!」
俺は思わず怒鳴った。
「もう終わりなんだ……第666特別大隊は解散する。どこに逃げてもいい、一人でも多く生き延びろ!」
それでも誰も引き下がらない。その顔には、諦めも、恐怖もない。
ただ――ここに居たいという強い意志だけがあった。
…………ならば、暴いてやる。
この隊の、もう一つの闇を。ただの女学生学徒兵部隊どころではない漆黒の闇を。
「…………ああ、教えてやるよ。この大隊の秘密をな。なぜ『女学生だけ』の学徒兵大隊なんて、奇妙な部隊が生まれたのか!」
「スカイ!? ダメ、それは……!」
レベッカが止めようとするが、もう遅い。
「お前たちはな……『邪神への生贄』だったんだよ!!」
俺はそう叫ぶと、自暴自棄気味に、それまで持っていたアサルトライフルを地面に投げ捨てた。