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小さな一歩を少しずつ

年末。杏珠は喫茶店でバイトをしていた

そんな中、チーフであり

気になっている瀬名から

初詣の誘いをうけ…?

☆杏珠視点☆


時計の針が、こくこくと約束の時間へと迫ってゆく。

私は自分の格好を何度も窓ガラスで確認しながら、ため息をつくばかりだった。

どうして私、行くなんていっちゃったんだろう。

男の人と初詣なんて初めてだから、どうすればいいか柴乃に相談したけど……


「嘘! それってデートってことじゃない! 大チャンスよ、あんちゃん! この機会に、瀬名さん落としちゃえ!!」


正直、相談する相手を間違えたと思った。

そりゃちょっとは気になってるとはいえ、落とそうだなんて……

不安だ。私なんかが、彼の隣にいていいのか……

あんなにきれいで、かっこいい神月さんが私となんて……


「悪い、少し遅くなった」


そんなことを考えていた矢先、彼はやってきた。

初めて会った時に見た、白い胴着に黒い袴をこしらえていて、すごく様になっていて。

見るのは二度目だというのに、そのカッコよさに私は言葉を失ってしまって……


「ほう……本当に着てきたのだな、着物」


「こ、これは柴乃が言うから仕方なく……あ、あけましておめでとうございます」


「ああ、今年もよろしく頼む」


彼に連れられるがまま、私は鳥居をくぐり奥の方へと進んでゆく。

彼の実家でもある神月神社は、私が住んでいるところからは少し遠い場所にある。


私が無知だったから知らなかっただけで、結構有名な神社らしく初詣というだけあって人でにぎわっている。

地元じゃない分知り合いとかに見られなくて済むのは、少し助かるんだけど……一緒にいるのが彼ってだけで、やっぱり変わるなあ。


「その着物は渕脇がと言っていたが……選んだのも渕脇か?」


「え、ええ。もともと家にあったものから、柴乃がコーディネートするって言い出して」


「センスがいいと言うのは、本当のようだな。以前浅沼も、そのようなことを言っていた」


「浅沼君って、意外に話してくれるんですね……」


「結構話してくれたぞ、学校のこととか」


それって浅沼君なりに、柴乃のことを好いているってことなのかな?

二人を見ていると、うまくいっているのかなんなのかよくわからなくなる。

一年の時と違うのは、すぐにわかるんだけど。

柴乃はあの時から変わらないけど、確かに浅沼君は柴乃を見る目が少し優しくなったような……


「さすがに年始休みとあって、混んでいるな。はぐれないように気を付けるんだぞ」


「あっ、はい……」


「そういえば今年受験だと言っていたな。勉強の方は大丈夫か?」


「まあここのバイトのおかげで、だいぶ……神月さんは、バリスタの大学通っているんですよね?」


「たいしたことではなかろう?」


「そんなことないです。二年生なのに、バリスタを任されてますし。家のことだってあるのに」


「家のこと、か」


ふと寂しそうな表情をしたのは、気のせいだろうか。

彼につられるがまま、やっとのことでお寺の方につく。

二礼し、ぱんぱんと手をたたき目を閉じてお願いする。

いつか、自分に自信が持てますようにって。

ついでに柴乃のこともお願いしちゃおうかな。なんて、ちょっとおこがましいか。


「正直どう思う? 僕のやっていることについて」


いきなり話題を振られて、きょとんと首をかしげる。

神月さんは少し話そうと言って、人の出が少ない寺の隅に案内してくれた。


「ここならいいだろう。話せるか?」


「あの……やってることって?」


「以前お前も目にしただろう? 祓い屋のことだ」


祓い屋。罪や穢れ、災厄などの不浄を心身から取り除くための呪術。

私の詳しいことは分からないけど、以前姫野ちゃんが悪霊に取りつかれているということで払う儀式は見たことがある。

神月さんのおうちはお寺で、物心ついた時から祓い屋の仕事を手伝わされていたらしいけど……


「どう思う、と言われても……私にはすごいとしか……」


「僕よりすごい人間など、山ほどいる。特に、専門として仕事をしているものはな」


「どうして祓い屋さんなのに、バリスタなんですか?」


「あの喫茶店に何となく立ち寄った時、マスターに言われたんだ。それが君の本当にやりたいことなのかとな」


マスターさんがいまだにどういう人なのか、事実私にもわからない。

神出鬼没で、年齢不詳。神月さん曰くさぼっているみたいだけど、どこで何をしているのかはわからない。

私もあったことは数えるくらいしかないけど、きっとその人にはわかったんだろうな。

神月さんが、自分でも気づかなかったことが。


「まあ、僕のことはいい。それで? 杏珠はどうなのだ」


「私、ですか?」


「自分には合わない、向いていない。その理由で、いつまで逃げるつもりだ」


逃げている。

否定したかったのに、何も言えなかった。

私は今まで、楽な方に逃げているだけだから。

分かっていることなのに、自分ではどうしようもできなくて……


「私……自分に自信がないんです。何を考えるにしても、こんな私じゃって……」


「人間、誰だってそう言う人ばかりだぞ。例外がいるみたいだが」


「神月さんは、どうして私のことを下の名前で呼ぶんですか? 初めて会った時から、ずっと呼んでくれて……」


ずっと聞きたかった。バイトで知っているはずの浅沼君ではなく、初対面だった私を名前で呼ぶのか。

小さい頃から、この名前を馬鹿にされるのが嫌だった。

似合わない、名前負けしてる、もったいない。

そう言われるのが嫌で嫌で仕方なくて、いつからか自分から名前を言わなくなった。

先生や友達にも、名字呼びをお願いして。

なのに神月さんは今でもー……


「なんで、か……単純に好きなだけだ。杏珠という名が」


「私の、名前が?」


「僕も名前に関しては、いい思い出がなくてな。だがいい風にとらえてくれる人もいた。僕は杏珠に、名前で呼ばれることを恥じないでほしい。それを自信に変えられるよう、もっと強くなるんだな」


この人は、どうしてこんなにすごいんだろう。

同じ人間なのに、考え方がまるで違う。

やっぱり私は、彼が好きだ。

好き……なんだ。


「……神月さん……私……できることなら、神月さんのお役に立ちたい。おそばにいたい。そう思うのは、迷惑じゃないですか?」


気が付いた時には、本音が漏れていた。

これは、かけも同然だ。

今まで逃げ続けていた恋愛の道から、目をそらさないためのかけ。


あんなに情けなかった柴乃も、今では強く自分の恋愛に向かって走り出した。

下僕として男子を使っていた姫野ちゃんまでも、自分に合う王子様を見つけた。

今度は、私の番だ。

前のように、後悔しないためにも。


「そうだな……お前が自分に自信を持ち、大丈夫だと思った時に考えてやろう」


「うっ……それじゃあ、いつになるかわからないじゃないですか」


「それだけ自分が頑張ればいい話だ。自分は変わったと胸を張って言える時に……その言葉を、また聞かせてくれ。それと、僕のことも瀬名でいいぞ」


優しい微笑みが、いつにもなく暖かい。

彼はいつでも、私をその笑顔で包み込んでくれる。

私は、この笑顔にこたえたい。

少しずつ、ゆっくりでもいいから。

私の物語は、ここから始めるんだー


(つづく!!)

あけまして、おめでとうございます!

2020年の始まりとぴったりな

初詣からのスタートです!

実は早めに投稿納めをしたのは

この話にあわせるためでもあったり…


ラストスパートに入りつつある双子姫

最後までよろしくお願いします!


次回は11日更新。

主役はもう一人の主人公!

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