マイりージャの傭兵
レイは給料日お金を下ろしてこれから刀を取りに行くと言う。
なんでも先日の怪物との戦いでだいぶ刃こぼれを起こしてしまい砥ぎに出していたのだそうだ。
ところが金が無いので給料が出るまで取りに行けなかったらしい。
「一応親父から貰った刀なんでね、帰ったとき持っていないとまずいからね。」そういってレイは苦笑いをする。
そっかあれで怪物をやっつけられたんだもんね。だけど結局一文にもならなかったし。
レイの立場だったら名前が売れればそれも良いかもしれないけど、あんな田舎の出来事じゃねえ。
「砥ぎって結構高いんでしょう。」
「ああ、2週間分の給料がパアだよ。まあ折れてしまったらそれどころじゃ無いけどね。来週は寮以外の飯は食えないかもしれないね。」
何とも切実な事で。
「ラフレアも一緒に行くなの。」
「ラフレアちゃんが行くなら私も一緒に行くわ。」
「いいよ刀を受け取るだけだから。せっかくの給料日だろう。何かうまいもんでも食べて帰りなよ。」
「いいの、行きたいなの。」珍しくラフレアが自己主張をする。
「そ、そうかい?それじゃあ行こうか。」
砥ぎ屋は町の繁華街の方に有る。武器屋と言う物は無いが金物全般を扱っている所が有る。
そこに武器、防具の類も置いてある。まあ町からあまり出ない人には武器なんかいらないからね。
「レイ・ブラッドリさんだね。砥ぎは上がっているよ。」
ドワッフ族の店の主人は奥からレイの刀を持ってきた。
「確認しておくれ、それなりの刀だったから砥ぎ師はいい男に頼んでおいたよ。」
レイは刀を抜いて刀身を見る。銀色に輝く刀身は美しいとエマは思った。
「まあ、両手持ちの剣は鎧の上から打ち合う物だから結構なまくらが多いんだ。だがそいつは本物の鋼でできているからな、あまり鎧を叩きなさんなよ。」
まあ鎧じゃなかったけど鎧よりも硬いものの隙間に突っ込んだんだからな~。
「判った、ありがとう。それでいくらなんだ?」
「今回は少し痛みが激しかったからな、こんなものだ。」
店主は金額を示すとレイが頭をひねる。
「まいったな、少し足りない。親父、少しまからないか?」
「おいおい、この仕事を見て値切るなよ。砥ぎ士に失礼だぞ。」
店の親父はドワッフ族だ、ドワッフ族は一般に職人に対する畏敬の念が強い。この仕事に対する価値として正当な値段を主張しているのだろう。
「判った仕方ない。来週まで預かっておいてくれ。」
「まあすぐに使わないんだろう。焦ることはないさ、来週に取に来てくれればいいよ。」
「足りない分はラフレアが出すなの。」
店主が剣をしまおうとするとラフレアが横から口を出す。
「え?」
「いくらなの?」
店主が困ったようにレイの方を向く。
「い、いやいいよ。いくら何でもラフレアさんに出させる訳にはいかないよ。」
「いいの。レイさんとエマさんで村を守ってくれたんだからその位したいなの。」
店の外でシドラが自分の事を指さしていた。……あいつまた黙ってついて来たな。
「わかった。それじゃあ貸してもらおう、来週返すからね。それでいいだろう。」
ラフレアがレイの方を見ると二人の目の位置が合う。
身長が同じ位だからな~っ。ラフレアちゃんやっぱりでかいな~。
「わかったわ。それでいいなの。」
「ありがたく貸してもらうよ。」
レイは支払いを済ませると剣を腰に吊るす。
「わっ、剣を吊るすとレイもすごくかっこいいじゃない。」
「まあ、剣は戦うための武器とは言っても実際の戦闘では役に立たないからね。」
「そうなの?」
「騎士同士が名乗りを上げて一騎打ちをしたのはそれこそ一つの国に騎士が何人もいない時代の話さ。」
なんでも昔は戦争なんて数人づつの騎士でやってたみたいだ。
そんな時は槍を持っての騎馬戦をやって二人とも落馬した場合に初めて剣を持って戦ったみたいだ。
大抵は先に落馬した方が負けるが負けた方は人質になって身代金を積んだそうだ。
ところがマイリージャでは戦闘集団としての軍隊を作って近隣のドームを平定し始めた。
「マイリージャは完全な軍事国家だから騎士は雑兵を束ねる役目でね、一騎打ちなんかはもう無いよ。」
「ふ~んそうなんだ。」
エマが小さい頃に祖母から寝物語りとして聞いた話はやはり英雄伝説であり、そこに出て来る英雄は騎士であった。
かつてエマのドームにも戦争は有ったらしいがそれも昔の話だ。
現在の領主が行う事は税を取ってそれで道路や川の整備を行っている。
軍隊は有るがそれは警察機能が大半でドーム通路の橋の部分の防衛だけやっておけば他国の軍隊が大挙して押し寄せる事もない。
結局ドームと言う物の存在は各地方の勢力をを分散化し中央集権が起きにくい状態を必然的に作り出しているのだ。
逆を言えばそういった世界の中で侵略国家を作り征服した国を中央集権で納めきっている所がマイリージャのすごい所だ。
「それでもレイは騎士を目指しているなの?」
「自分のと言うよりは親父の夢だからね。」
まあ、自分に出来なかった夢を子供に託すのはいいけど託された方は困っちゃうよね。
「実は私もそれ程騎士に成りたく無い訳では無いんだ。」
「そうなの?」
「マイリージャは強力な軍事力を持った国だからそういった国で平民が出世するのは騎士になるのが一番手っ取り早いんですよ。」
「レイさん出世したいなの?」
「出世しないと家族を養って行けないからね。」
その時街角から出てきた男達がレイとぶつかった。話に夢中になって前を見ていなかった。
ガチャンと音がしてお互いに吊るしていた剣のさやがぶつかる。
「貴様、なにをしやがる。」
こんな時間から飲んでいたのか酒の匂いがする。
「ああ、これは失礼いたしました。」
「貴様、騎士の魂である剣にさや当てするとは何事であるか!」3人組の正面に居た男が怒鳴る。
3人共に皮の胸当てと下がりをつけている、戦闘を生業にしている格好だ。
「これは申し訳ありませんでした。しかしぶつかったのはお互いに前を見ずに歩いていたが故の事。今回の事は双方に非が有ると考えます。」
レイは相手に対し慇懃に答える。
「我々はマイリージャ衛星国チンジャリーから来た国軍である。貴様のようなどこぞの馬の骨と一緒にされては迷惑。今の一言だけで決闘の理由には十分であるぞ。」
あ、馬鹿だこいつら、他のドームに来てまで威張り散らしている。
こんな所まで自分の国の権勢が通じると思っているだけで頭がおかしい。
「まあまて、この様な田舎者と争っても仕方がない。弱い者いじめはよさんか。」
隣にいた男がいさめる。少しは話の分かる奴かな?
「どうだ、土下座して謝れば多少の事で目こぼしはできるぞ。」
あ~あ、救いようのない馬鹿が3人集まっているんだ。
「どのような意味で言われているのかはわかりませんが双方に非がある以上こちらが一方的に謝るいわれは有りません。」
建物の陰からシドラがこちらをうかがっているらしい、チラチラと顔が見える。
あいつ、登場のタイミングを計っているな。
「そこまで言うのであれば決闘も致し方がないな。騎士の魂を汚されたのだ貴様にも相応の報いを受けてもらわねばならん。」
騎士?魂?どう見ても騎士の顔じゃないな。
「どうだ悪いことは言わん、土下座してその刀をこちらに渡せばここは見逃してやると言っているのだ。」
どこかの山賊崩れか用心棒じゃないのか?隊商の護衛でこのドームに来たみたいだな。
「剣が騎士の魂であるという思想はマイリージャには有りません。マイリージャの属国のあなた方の下で騎士道は変わったのですか?」
「貴様聞き捨てならん!わが騎士道を愚弄するとはもはや土下座だけでは承服できん。」
「貴様はわれら3人相手に勝てる自信があるのか?その刀と女を置いて早々に立ち去るがいい。ああ、そっちのドワッフ族の女はいらん。」
あ、あたし?あたしがレイの身代金代わり?
いや、それよりも今の一言であたしの後ろからラフレアちゃんがものすごい殺気を放っているんですけど。
「二人とも後ろに下がっていなさい。」
レイが剣の鞘を握る。
やめた方がいいよ~。今日は防具を付けているし、あたしも以前3人相手に袋にしたことが有るけど、ラフレアちゃんじゃあんたら10人まとめてかかっても勝てないよ~。
胸に少しでも触ったら地獄が出現するからね。
正面の二人が剣を抜いてレイに切りかかる。3人目の男は動かないままだ。
レイが持っているのは両手持ちの直剣、手前の男が持っているのがサーベルだ。
男は片手でサーベルを斜めに切り降ろしてくる、片手剣だけに早い。
レイは半歩下がると剣を鞘ごとサーベルの横腹にあてサーベルの軌道をずらして踏み込む。
隙だらけになったレイの頭めがけて隣の男が大上段から両手持ちの直剣を振り下ろしてくる。
切るのではなく叩き割るのであるから狙うのは頭である。
連携は取れている、決して行きずりの無頼ではない。騎士では無いだろうが傭兵ではある動きだ。
レイはそのまま鞘を両手で持って男の手首に当てて振りぬく。男の手首が嫌な音を立てる。
素早くサーベルの男が振り向きざまに横なぎに払おうとするがレイは左手で男の右ひじを抑える。
そのまま男の尻を蹴り飛ばすと男はつんのめって転がる。
手首を折られたたらを踏んだ男はそれでも残った片手で剣を使おうとする。
だがはるかに遅い、レイは刀の鞘を男の腹に突き立てると男は腹を抱えうずくまる。
転がされた男はレイに切りつけようと直ぐに立ち上がる。
しかしレイは素早く一歩踏み込むと男の額に向け剣を鞘ごと薙ぎ払う。
額に鞘が当たると男は白目を向いて伸びてしまった。この間数秒の戦いであった。
3人目の男はずっとこの状況を見ていたが、レイが男の方を向き直ると剣を抜いてにやりと笑う。
「若造、なかなかの腕の様だな。」
男の肩には筋肉が盛り上がり分厚い胸と太い腕をしている。それ以上に他の二人とは雰囲気が違う。
かなりの腕の様には見える。
「騎士の決闘であれば名乗り合うが常道。名乗らないのですか?」
「ふん、下衆な貴様に名乗るななど無いが冥土の土産に教えてやろうチンジャリーが国軍アンドレ・ガイア。」
「チンジャリーは国ではなくマイリージャ王国チンジャリー州の筈ですが。」
「ふん、そのような事はどうでも良い。死ね!若造。」
あ、また誤魔化した。
やっぱり少しでも自分の事を偉そうに見せたいのね。騎士とも名乗らなかったからやっぱただの傭兵だな。
男が力に任せに刀を振り回す。レイが鞘を持ったままそれをかわすが意外と反撃できる隙が無い。
タッタッとステップで男から距離を取る。
「貴様なぜ剣を抜かん。わしを相手に剣を抜かねば死ぬぞ。」
再び男が猛攻を仕掛ける。今度は躱し切れずに剣の鞘で相手の剣を受ける。
すでにレイの表情に余裕はない。
ダダッと男に押し負けて下がったレイを見て男は剣を下げると見下すような笑みを浮かべる。
「ふん、貴様は人を切ったことがないな。」
レイの頬がひくっと動いた。
「剣を抜けば相手を殺してしまうかもしれない。それが怖くて剣が抜けないのであろう。」
もはや男はその口調にも余裕が現れる。
レイではこの男に勝てないと確信した口調だ。
おそらく剣を抜いても相手を切る事を躊躇すればその隙に殺される事は目に見えている。
レイの顔が緊張にこわばる。このまま剣を抜かなければ…いやたぶん抜いてもレイに男は殺せない。
「どういたしました、エマさん。お困りの様で……。」
「ん?」
ラフレアが振り向く。
「あれ?エマさんはどちらに?」
やっぱりシドラは出現のタイミングを計っていたみたいだ。
「あっち。」
ラフレアは剣を持った男のほうを指さした。
「あんた自分が絶対に勝てる相手と見ると随分態度がでかいじゃない。」
「なに?」
男が振り返るといつの間にか背後にエマが立っていた。
「ふっ、女が騎士同士の決闘に口を出すな怪我をするぞ。」
馬鹿にしたような口調でエマから目を反らす。
「勝てる相手と思って余裕こいているんじゃ無いわよ。」
そのままエマは男の頭に思いっきり蹴りを見舞ってやった。
男は3回転すると立ち木に激突して白目を向いていた。
「あれ?」
エマはその蹴った格好のまま固まっていた。ちなみに今回はちゃんとぶるまーは履いていた。
「うそーっ3回転するのはウィザーだけだと思っていたのに。」
「私を何だと思っているのですか!?」
「うわっ、出た!」
「なんですかー?昼間の幽霊じゃないんですからー。」
「シドラは受けを狙ってわざと回転してると思ってたのに。」
「エマさんの蹴りをまともに受ければ誰でも3回転します!」
そうなの?あたし、そうなのー?
やっばーっ、全然知らなかった。うかつに蹴ると下手すりゃ死ぬじゃない。
「生きてる?」
「…まあ…今のところは…。」
男の様子を見ていたレイが答える。彼もいささかビビッている様に見えた。
他の二人も命に別状が無かったので警備の人間に3人共引き渡した。
剣を抜いた人間が剣を抜いていない人間にのされたんだから言い訳のしようがないよね。
「チンジャリー州は我々の居るジョライ・ドームの隣のチェンジャリー・ドームに有るマイリージャの属国なんでしょ。」
「いまこのジョライ・ドームは大量の木材をチェンジャリー・ドームを経由してマイリージャに運んでいるみたいですね。だからその資材の運搬を行う業者がいてその警備を行っているのがこの手の連中らしいです。」
来てくれた警備の人間がそのように言っていた。
やっぱりただの傭兵だったらしい。レイの刀を見ていて巻き上げようと思って因縁をつけてきたみたいだ。
マイリージャの騎士学校を目指すレイにマイリージャに雇われた傭兵の醜態を見せられたんだ。レイも複雑だろう
アクセスいただいてありがとうございます。
レイが騎士になれない決定的な理由が判りました。
それにしても実力のない人間が組織の力を自分の力として権勢をふるうのは見苦しい物です。
エマのお金も貯まってきましたが次回から2回に渡ってグルメ物に行ってみます。 以下次号
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