略奪婚で略奪されました。
エマは風呂場の姿見の前にいた。先日シドラからもらった服を試着していたのだ。
ズボンと言いつつ股の付根からスッパリと切られた裾はエマの太ももを完全に露出させていた。
しかもかなり仕立てが良くて高級な素材を使っているらしく、エマのお尻にピッタリと収まっており全く隙間ができなかった。
これならどんなに大きく足を広げても問題は起きないだろう……太ももが露出する以外は。
実は成人女性全員がロングスカートを履く習慣のエマのドームでは太ももはめったに露出されるものではなく、それを見せる事自体がタブーでは無いものの非常に扇情的な効果が有ったのだ。
「まあ、以前は子供だったし、でももう大人なんだから少しおしとやかにしなくちゃねえ。」
等と思いつつ股割りを行なってみる。180度完全に開くエマの股に対して全く隙間が出来ず寸法取りの正確さを伺わせる。
あのやろうこんなに正確に……。
風呂から出てくるとシドラが雑巾がけをしているところに出会う。
大柄なウィザーが尻を振りながら行なっている雑巾がけはなかなかにシュールな絵面である。
シドラは手を袖から出さないまま雑巾がけを行なっている。
どういうことかと思って見ていると雑巾ごとその袖を水の中に入れて雑巾を搾っている。
なにやってんだアイツは。
ところが水から袖を上げた途端に袖に染み込んだ水はザーっとバケツの中に落ちた。
全く濡れた様子のない袖でシドラは雑巾がけを行なっていた。
エマは呆気にとられてそのまま立ち尽くしていた。
そういえばウィザー達はいつもあんな暑っ苦しいコートを羽織りながら汗をかいた様子はないし、どんな埃っぽい日でも薄汚れた感じは一切なかった。
それこそ一年中洗いたてのようなコートを着込んでいた事を思い出す。
どうやらあれは魔法のコートらしい。ウィザーであればその程度の事が出来ない筈もなかった。
「おやこれはエマさん。」
「あんたも掃除に励んでいるみたいね。」
「いやははは~っ、私も掃除をするのは初めてですがなかなか楽しいものですね。」
「え?だってウィザーの皆もやっているじゃない。」
「そうなんですか?私は新米なもので良く知らないのですよ。」
「ウィザーギルドの前の道は毎朝ウィザーが掃いているのよ。見たことは無いけど事務所の掃除もやっているんでしょう。」
「ほう、そう言われればそうですね。」
「あんた本当になにもやって来なかったの?」
「はいウィザーになってからは運送業務を行っていましたから余りギルドを見る事無くエマさんの所に来ましたから。」
「だってその前は旅をしていたんでしょう。」
「はい、ですから西も東も判らないんですよ。」
真綿に包まれた生活をしてきたのかコイツは?いくら非常識揃いのウィザーと言ってもコイツは度が過ぎている。
それとも受けを狙っているのだろうか?
考えてみればウィザーとまともな話が通じるわけも無かった、そう思い起こしエマはその場を離れた。
明日は出発しなくてはならない、だいぶお金使っちゃったからな~っ。
薬草はそこそこの値段で売れたけどどっかで仕事しなくちゃこの先は苦しいことになりそうだ。
その夜エマは神社の境内にやって来た。
小さな明かりがあちこちに見える、みんな木陰や藪に隠れながら広場に向かっている様である。
「ちょっとそんな格好で私の後ろに付かないでよ。」
「しかし姿を見せないようにと言われていますので四つん這いで行きませんと。」
「だからって私のすぐ後ろに付くのはやめてよ。」
「大丈夫ですよ寸法どりの魔法は使っていませんから。」
ボンッと音を立ててエマは真っ赤になった。
「あんたね~っ。」
つい大声を上げる。
「「「「シーッ」」」」
周り中から声が聴こえる。姿は全く見えないがかなり多くの人が身を潜ませているらしい。
「キューちゃんは?」
「はいここに目だけ付いて来ています。」
シドラの足元にはキューちゃんの目につながるコードが見えている。
「きゅうう~っ。」
目だけでも声は出せるみたい。
広場の真ん中には敷物が敷かれており既に座っている家族もいる。
月が満月になり真夜中であることが判る頃になると家族は抱き合って娘をその場に残して立ち去る。
サツキちゃんもその中にいた。
5人の女性が白い服を着てそこに座っている。真上に有る満月が広場を照らしている。
突然社の裏手から何かが躍り出てくる。
大きな鬼の仮面をかぶった男のようである。綿入れを着て草の穂で作った外套を着ている。
それぞれの手には大きな包丁を持ちそれを振り回しながら口々に叫ぶ。
もっとも包丁は明らかに木で作られたと判るニセ物であったが。
「嫁子はいねが~っ。」
「逃げ出す娘はいねが~っ。」
現れた3人の男達は口々に叫びながら女達を威嚇する。
「きゃあああ~っ。」
女達は悲鳴を上げる。女と言ってもピクシー族の女である。
周りで威嚇する大きな男たちにまるで子供をいじめている大人の様に見える。
ひとしきり威嚇すると男達は女達を抱え上げると社の裏に姿を消した。
「おかしいですね、エマさん。」
「え?何が?」
「この儀式は略奪婚ですよね。」
「そう聞いているけど、なにか?」
「そうであれば男と女は同じ数でなくてはなりません。少なくとも男が多くなければおかしいです。」
そう聞いてエマははっとなった。女が5人、男が3人……数が合わない。
「それにあの鬼の中身なんですがどう見てもドワッフ族にしては大きかったと思いませんか?あれではまるで人族位の大きさが有りました。」
「ま、まさか彼女たちは……?」
そうエマが言った途端社の後ろのほうから声が聞こえた。
「大変だ男達が縛られている。」
あわててふたりとも社の裏に向かって走る。
そこにはふんどし一丁で縛られたドワーフ族の男達が5人いた。
「くそおおっ。オラたちの嫁がさらわれた~っ。」
「犯人は3人組の男だ、馬車で逃げて言っただ。」
縄を解かれた男達がが呻くように叫ぶ。
「ゴンジさん!」
5人の男の中の一人はゴンジであった。ほかのドワッフ族と違い髭を剃っていたので一目で判った。
「や、やあ、エマさん。」
「サツキさんの婚約者ってゴンジさんだったの。」
「てへへ、面目ねえ。」
「追え~っ追っかけて嫁子さ取り返すだ~っ。」
誰かが叫ぶと村人たちは馬車が去った方向に走り始める。
「おらたちもいくだ!」
縛られていた男たちも一斉に走り始める。
「無理ですよ相手は馬車ですからあの人達に追いつける筈もありません。」
「集まれ追っ手をかけるべ。すぐに馬車の用意をすべえ。」
周囲から姿を表したこの略奪婚を影から見ていた人々は追っ手をかける為に散らばって行った。
「だめよ、これじゃ間に合わない。」
「きゅういい~っ。」
「そうか、キューちゃん!行くわよ。」
エマがそう叫ぶとキューちゃんの軌道馬車はすぐにやって来た。
「あの馬車を追って、ピクシー族のみんなを取り返すのよ。」
「きゅうう~っ。」
エマが叫ぶとキューちゃんも負けずに声を上げる。
エマが馬車に飛び乗るとすぐに後を追い始めた。
「ちょ、ちょっとまって下さい。」
シドラが慌てて馬車にしがみつく。
「こ、これは人間同士の問題ですから戒律により私達が介入することが出来ません。」
「うるさいわね、そんな戒律はドームの外にでも捨ててらっしゃい。」
「いけませんキューちゃん馬車を止めて下さい。」
「きゅっきゅっきゅううう~っ。」
「え?エマさんの方が好きだからエマさんの言うことを聞くってですか?」
「ほうらキューちゃんもピクシーさん達を助けたいってさ。」
「グラスドームの時と言いあなたは私の使い魔じゃないんですか?」
「きゅううう~ん」
「ごちゃごちゃ言わずに黙って私に乗っていろですって?言い方までエマさん似て来たじゃないですか?」
ああーっ、うるさい。
すぐに馬車は先に走っていったドワッフ族に追いつく。
「あんた達お嫁さんを追うわよ。」
「おお、感謝するだ。」
5人のドワッフ族の男達が馬車に飛び乗る。
「いやいや、まずいっ、まずいですよエマさん、戒律が~っ。」
シドラの悲鳴を道端に放り捨てエマは馬車を走らせる。
さらわれたピクシー族の娘たちを追うドワッフ族を乗せた馬車の中で男たちは口々に叫んでいた。
「追うだ~っ。奴らをぶっ殺すべ~っ」
「逃がすでねえだど~っ。八つ裂きにしてやるだ~っ。」
「サツキ様~っ、安心してくだせえ、今助けますだよ~っ。」
うんうん、とっても頼もしい。
気が付くとエマの周りにはドワーフ達が集まって前を睨んでいた。
背こそは低いがドワッフ族である全員が大きく発達した筋肉を持ち体中の体毛が濃かった。
ゴンジを除いてみんな髭を伸ばしており、固い頭髪は走る風にもたなびかない。
しかも全員が衣装を取られてしまって現在はふんどし一丁しか付けていない。
「げげっ。」
彼らはエマと一緒の馬車の荷台で豊富な胸毛をたなびかせながら自分達の未来の嫁さんを追った。
ちょっとこの状況タンマ。
やがて追いつくと馬車の中の女達は口々に悲鳴を上げて助けを呼んでいる。無論その中にはサツキもいた。
「ゴンジ~っ助けて~っ。」
「サツキ様~っ今助けるだよ~っ。」
馬に乗るふたりの男達が馬車の両脇を走っている。
自分たちを追ってきたエマ達に気づいたらしい馬車はスピードを上げる。
「エマさん今は防具を付けてはいません。今度殴ったらまたしばらく湯治をすることになりますよ~っ。」
「判ってるわよ、もうお財布は空っぽになってるんだから。」
「でしたらまた今度ということで。」
「なさけねーウィザーだで。」
「この娘っ子程の度胸もないだか?」
ドワッフ族の男たちは口々にシドラをなじる。
「いえ、そうではなく戒律が破られてしまいます。」
「ならおめさはひっこんでろい。」
無碍に扱われたシドラは落ち込んで馬車の隅でいじけ始めた。
「私だってね~っ、戒律が無ければさ~っ……。」
シドラは馬車の荷台に座り込んで床にのの字を書いていた。
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すねるシドラ、追いかけるエマ。果たして花嫁は取り返せるのか?以下緊迫の次号
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