第三章4 それぞれが想うところ、想うもの
彼の心には何が沈んでいるのだろう。
買い物から帰宅しても、青年の瞳が記憶に焼き付いていた。私が考えてもどうにもならないのに。でも何故か引っかかっていた。こちらから声掛けただけでも進歩だったのだけど、うまくいかなかったな。猫カフェにまた行ったら会えるかしら。でも今日の出来事の後だと行って会っても気まずいか。
悶々と考えていたら頭痛くなってきた。考えてしまわないように何かして気をまぎらわそう。
そういえば出掛ける前に洗濯機をセットしたのに帰宅しても干してなかった。思い出してベランダの洗濯機から洗いあがった衣類をハンガーに掛けはじめた。
いくらか干していると、隣のベランダにも人影を感じた。深優? と声を掛けると返事が返ってきた。私が衝立の隙間から顔をのぞかせて、岡本さん大丈夫そうだったかと聞けば、問題なさそうだと安堵したような表情で言った。お粥を作ったとか、氷枕をしてあげたとか、彼女にしては珍しく自分からよく話した。立ち話では済まなさそうな勢いだった。
「こっち来て話す?」
と誘えば、いいですか! と嬉しそうに答えた。
一階のベランダは衝立があるもののベランダ同士に隙間があり、行き来ができる造りになっていた。隙間から深優を招きいれ、窓から部屋にあげた。
「それで、岡本さんはどんな感じなの。その、メンタル的な意味で」
紅茶と茶菓子を出して尋ねた。深優はそうですねぇ、と少し顔を曇らせた。
「こんなことを鈴に話していいのか……」
歯切れの悪い言い方をするのはおそらく彼女が岡本さんのプライベートな内容を知っていて、なおかつ勝手に他人に言うことに抵抗があるのだろう。人のデリケートな部分を気遣うのは、さすが作家というところだろうか。どこまで話すべきか考えているようだった。
「瞬さん、今回のコンテストは特に力を入れていたんで精神的に疲れがたまっていたんだと思います」
そう言って深優は言葉を切った。紅茶を一口飲むタイミングが一致して一瞬、沈黙が生まれた。私もそれ以上は聞かなかった。




