第三章1 花かごのメッセージ
いよいよ明日だ。手帳の日付を見つめて緊張してきた。まだ今日一日が始まろうっていう時間なのに、次の日のことを考えてしまう。壁に掛かったハンガーに下がる真新しいスーツ。
「もう二十四時間後じゃないか。どうしよう。いやどうしようもないけど」
一息に叫んでしまった。小学生でもあるまいし緊張するな、自分。たかが入学式ではないか、と言い聞かせてみるのだが人見知りの性格ゆえ不安しか湧いてこない。さくら荘での挨拶まわりで第一印象「引っ込み思案な人」を回避に頑張れたから何とかなるはずだよね? うん、きっと上手くできる。また変な思い込みをしなければの話しではあるが。
とりあえず持ち物を用意して、目覚まし時計をセットして……。
急な音にキャっと声をあげた。台風がやってくる前の農家さんのごとく明日の準備を進めていると、いきなり玄関のチャイムが鳴って飛び上がった。
何かしら、と出ると宅急便だった。大きな花かごが送られてきた。青い花とピンク色の花のふたかご。差出人には見慣れた自筆。
「父さんと母さんからだ」
カードに一言添えられていた。
――大学入学おめでとう――
こんな贈り物が届くと思っていなかったから、目頭が熱くなった。しばらく玄関に立ったまま、花かごを見つめた。
それにしても、筆まめな父もカードに一言だけとは珍しい。よっぽど忙しいのだろうか。そう思ってふと顔をあげる。まさかとは思うが花がメッセージそのものってことがあるかしら。そう頭に浮かんで部屋の本棚に走った。
この前買った花言葉辞典を手に取った。もちろん松岡さんの書いた本だ。乙女な花言葉辞典以外にも、『知って贈れば粋な花言葉』という本も書かれていたので二冊まとめて購入していた。こんなにはやく出番が来るとは。
花かごに差してある品種の名前を引いてみる。青い花のほうはムスカリと言うらしい。ブドウのようにも見える小さな花が連なっていた。
「二人とも……」
ムスカリの花言葉を読んで涙が落ちた。明るい未来。シンプルだけど不安を抱えた心には充分だった。
もう一つの花、カルミアも辞典に見つけてそのまま床に座り込んだ。カルミアのページには大きな希望、と書かれていた。
こんなメッセージの贈り方、反則だ。涙腺が緩むに決まっているじゃないか。
花かごを窓辺に飾り、受話器を取った。国際電話は何番からだっけ。




