第二章21 マダムの掃除、作家の掃除
「喧嘩でもなさったんですか」
「バカ、俺と真美はいつでも熱々だよ」
そんな真面目な顔でノロケられてもこちらが照れるのですけど。じゃあどうしたんですか、と聞きかえすと
「真美はな、イライラしだすと掃除する癖があるんだよ」
ため息をついた。なんだそんな感じか、と吹きだすと、
「いや大変なんだぜ。徹底的に掃除し始めるから避けといた方が身のためなんだ」
またため息まじりで話す高山さん。それにしても穏やかな性格の真美さんもイライラするのか。でも怒りの発散方法が掃除なんてかわいいものじゃない、と思った。
「女ってなんでこう周期的に怒りっぽくなるんだろ」
体の大きい俊也さんが今は小さく見えた。お疲れさまです、とだけ言いゴミ出しのつづきをした。
ゴミを置いて戻ると、まだベンチに高山さん親子がいた。二〇二号室に目をやると、真美さんの掃除はヒートアップしているらしくドアを開けて掃き掃除をしていた。近くにはゴミ袋の塊がいくつも転がっていた。大掃除になっているようだった。さくら荘の庭からでもわかるほどの苛立つ雰囲気が奥さんから伝わってきた。避難するのが良いと言う俊也さんの気持ちがなんとなくわかる気がした。
一〇二号室から深優が両手に古紙の束をつかんで出てきた。彼女も整理したのかしら。おはよう、と声を掛けるとワンテンポ遅れて挨拶が返ってきた。深優も掃除か、と聞くと苦笑した。
「まあ、結果的にそうなりました。昨日は原稿が進まなかったんで、なにかアイディアにならないかと溜まっていた資料を見ていたら途中から掃除に……で、今に至ります」
そう言えば、と深優が何か思い出したようにつぶやいた。
「資料を整理していたら面白い記事が出てきたんです」
「面白いって、どんな?」
興味をひかれて聞きかえすと彼女はあとで部屋に来て下さい、お見せします、と笑った。深優はひと眠りするから午後に、と言い残して古紙を置きに行った。
面白い記事って何だろう。




