第二章20 女子力の持ち主は女子だけ?
夕食を終え、カレンダーに目をやると明日はゴミの日だと思い出した。まだこの地域の収集日に慣れていないとあって、曜日の下に書き入れておかないと忘れてしまう。
「掃除して気を入れ替えようかな」
風水や占いを厳密には信じないタイプではあるが、新しいことが始まる前には気持よい環境に整えておきたい。入学式の前に、部屋を一度きれいにしておきたかった。
ラジオから流れる曲を聴きながら、軽い掃除を進める。ときどき鼻歌で最新ナンバーにハミングした。もう数日で入学式当日なんて早いな。さくら荘に越してきてまだ数週間なのにずいぶん長く感じた一方で、もの凄いスピードで日々が過ぎたような感覚。
「これくらいでいいか」
つぶやいて結わえていた髪をほどいた。相変わらず独り言を言ってしまう。一人暮らしをはじめて変な癖がついてしまった。
引っ越したばかりだからそれほどゴミが出るわけではないが、掃除機をかけたり、新聞をまとめたりしたら思ったより量が多かった。
明日は早めに起きて出しにいこう。
もう日付が変わる時間だった。床に就くと隣からまた例のうなる声が聞こえてきた。今夜も原稿が進まないらしい。ほぼ毎日聞こえてくる深優の声に慣れてしまった。
着替えてゴミ出しに外へでると、さくら荘の庭に置かれたベンチに俊也さんが座っているのが目に入った。隣には舞ちゃんもいた。俊也さんは火鉢にあたりながら、なにやら手作業をしているようだった。裁縫かしら。
おはようございます、と声を掛けると、手元から目を離して挨拶が返ってきた。
「おう、おはようさん」
「お早いですね。何をなさっているんですか?」
近くまで来てみたら、やはり裁縫をしていた。可愛らしいイチゴ柄の布を縫い合わせていた。
「わたしのシュシュよ」
舞ちゃんが待ちきれない様子で言った。パパはつくるのが巧いの、と顔をくしゃっとさせて笑う。
「こう見えて俺は細かい作業が得意でな。……意外だ、って顔してるな」
はははと太い声で笑ってそう話しながら、何針も縫っていく。よく意外だと言われるから慣れてるんだ、と続けた。
「本当にお上手ですね」
細かくそろった縫い目を見て感心した。
「シュシュだけじゃないぜ。舞の上履き入れや弁当袋なんかも作れる。アクセサリーもちょっとはできるし」
女子力高いな。こんなごつい風貌からは想像できない。話しているうちにシュシュが完成した。さっそく舞ちゃんはお父さんに髪を結わえてもらい、シュシュでポニーテールにとめた。手慣れているな、とその様子を眺めた。
それにしてもなぜこんな早朝から外でしているのだろう、と疑問に思った。尋ねてみると高山さんはちょっと困ったような表情を浮かべた。いや実は真美がな、と歯切れの悪い言い方をする。




