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さくら荘の珍住人  作者: 和泉あや子
第二章 住人のギャップ
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第二章8 創作者のお参り

 転びかけた深優をナイスフォローしたのは二〇一号室の岡本さんだった。深優が瞬さん、と言ってはじめて岡本さんの下の名前を知った。この前に話しかけたときより、すっきりした顔をしていた。着ている服も絵具のシミはなかった。

「ありがとうございます。瞬さんのおかげで助かりました」

 深優は耳を赤くして言った。怪我しなくて良かった、と岡本さんが言い、

「いつも元気いいね」

 ふわり、と笑った。深優が転ぶ前に言いかけたことを思いだしたのか、そういえば僕に何か、と聞いた。

「あ、その。創作に集中していたらご飯召し上がれないかな、と思って。それで、いつ戻られるかわからなかったんですけど、差し入れできたらと」

 おずおずと話す。それで食べ物買いに戻ろうとしたのね。大凶のおみくじに書かれていた注意が早くも現れていて怖くなる。

 彼女の言葉を聞いて画家さんは嬉しそうに、僕のためにありがとうね、と表情が明るくなった。

「岡本さんもお祭りですか?」

 と聞いてみる。私を見て、えっとこの前の、とは言うが誰だっけというような顔をした。神月です、とまた名乗った。岡本さんは思い出したのか、そうだった、とうなずいた。

「お祭りの出店には用事はなくて。……良い創作ができるようにお参りを毎年しているんだ」

 ゆっくりと言った。静かな話し方をする人なんだな、と思った。そうなんですか、と相づちをうった。

「わたしも同じです。お参りするときはいつも創作のことをお願いしてしまいます」

「やっぱり……創作者はそうなるんだね」

 私にはわからない境地なんだろうな、と二人の話しを聞いて感心した。そうやって何かを生みだしていくんだ。こういう人たちには創っているときに、何かが降りてくることあるのかしら。

「神頼みはしない方なんだけど、見守って下されば……と思って」

 それじゃあお参り行ってくるね、と境内の方へ歩いて行った。瞬さん、本当に創作熱心ですよね、と深優が岡本さんの背中を見ながら言った。

「深優も熱心なほうだと思うけどな」

 徹夜で執筆するとか、話しながらネタ考えているところとか、と思ったまま伝えれば少し照れた様子で、ありがとうございます、とつぶやいた。


「どうする、岡本さんに何か買ってくるの?」

「そうですね、お参りから戻ってくるまでに何か差し入れ買っておきます」

 今度は走りださずに歩いてお店の方に向かった。危なっかしいので私もついていく。


彼女が食べたのと同じものを、さすがに全部は多いと思い何品か買って、鳥居のところで岡本さんを待った。

 それほど待たずに岡本さんが戻ってきた。おみくじを何枚か手に持っていた。

「あれ、待っていてくれたの」

 私たちの姿を見て画家さんは驚いたように言った。差し入れです、と深優が袋を渡した。ありがとう、ちゃんと食べないとだよね、と頭をかいて苦笑いした。

「おみくじ引いたんですか」

 私が指さすと、岡本さんは、ああ引いたんだけど、と言いにくそうに話した。

「一枚目に引いたら……大凶で」

 失礼ながら吹きだしてしまった。そんなに面白かった? と困惑した表情の画家さん。

「わたしもです」

「え、そうなんだ。……で、二枚目がね大吉だったんだ」

 最低と最高を引くなんて、創作者って何かもってる気がする。


 おみくじの話しをしながら、さくら荘まで三人で歩いて帰った。


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