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さくら荘の珍住人  作者: 和泉あや子
第二章 住人のギャップ
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第二章7 おみくじ

 焼きたてのたこ焼きを、ヤケド覚悟のうえで口に運ぶ。火を吹くドラゴンのごとく、口から湯気がのぼる。食物を求める胃袋が喜んでいた。たこを入れた生地を丸めて焼いただけなのに、なんでこんなに美味しいのだろう。かつお節の香りが芳ばしく、ソースの濃くをひき立てる。

 天然女子はというと、食べ物の出店を何軒かまわっていた。焼きそばと、お好み焼きと、たこ焼き、たい焼きとチョコバナナも、それから焼き鳥。そんなに食べられるの、と聞けば平気です、と満面の笑み。意外とよく食べる文系女子なのね。いや文系は関係ないが。あの小柄で細い体のどこに入っていくのだろう。


「はぁーお腹いっぱいで幸せです」

 あれほどの量を軽くたいらげて、満足そうな顔をしていた。よく入るね、と笑うと、まだデザートが食べられますよ、と真顔で返された。深優には驚かされっぱなしだ。

 そのあと二人で今川焼を食べて、お腹が満たされた。


 お参りとおみくじを引いて帰ろうか、ということになり境内のほうへ歩いた。

 いつもならお賽銭は五円玉を入れるが、引っ越して間もないとあってさくら荘の号室と同じ一〇三円を入れてみた。人付き合いが緊張せず上手くいきますように、と心のなかでお願いした。

 おみくじを引くと、末吉。末は吉になるわけだから、まずまずといったところかしら。自分勝手な思い込みをせずに真の姿に目を凝らしなさい、と書かれて痛いところを突かれた。神様どこからみていたんですか。人間関係の欄は、良縁あり、人とのつながりを大切にせよ。すっと深優を見た。彼女との出逢いも、学ぶところがあったな、と思う。

 深優はおみくじ、何だった? と聞けば、引いたくじを見せてくれた。

「わ、大凶なのか」

 なんとフォローすれば良いのか言葉につまる。

「わたし初めて大凶を引きました……」

 いつもは大吉とか吉とかなのに、とうつむく。ここは励ました方がよいのか、いや無責任に励ましたらかえって傷ついちゃうかしら。思案していると深優がぱっとこちらを向いて

「ある意味すごいですよね!」

 と明るい表情になる。あまりの前向き思考に瞬きしてしまう。

「なんて言いますか、もう運は下がりきっているから上がるしかないですからね。最凶ならぬ最強みたいな」

「ものすごいポジティブシンキングだね……」

 先ほどまで掛ける言葉を悩んでいた自分が馬鹿に感じてしまう。

 大凶のおみくじをよく見ると、精進せよ、まわりの人が助けとなると書いてあった。そして行動に気をつけよ、怪我の恐れあり。とも書かれていた。おっちょこちょいな深優は常に気をつけなきゃでは、と思った。


 おみくじも引けたことだし、陽も傾きかけてきたから帰ろうか、と鳥居のほうへ歩きだす。

「あ、ごめんなさい、もう一回食べ物買ってきます」

 だっと走っていく。

「えっまだ食べるの!?」

 走る深優に叫んだ。彼女は少し振り返りながら

「いえ、違うんです。自分のじゃなくて瞬さんに、」

 うわ、と言いながら段差に足をとられた。危ない、転ぶよ、と叫んだ。


「……っと危ない」

 タイミング良く、近くにいた青年が深優の腕をとって支える。

「大丈夫かい?」

 と青年が聞いている。転ぶのを回避できて良かった。まったくそそっかしいなと思いながら深優のもとに走り寄った。

「あ、瞬さん」

 深優が瞬さん、と呼んでいた青年は岡本さんだった。


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