第二章6 綿あめの味は思い出の味
父母に両手をつないで歩く親子の姿を眺めているのに、深優はどこか遠くを見つめているように思えた。
「わたしはあんな風に親子で過ごした思い出はなくて」
いつもは明るい彼女が見せた一瞬の影だった。そうなんだ、としんみりして言うと、いつもの明るさに戻った。
「ごめんなさい、暗くなってしまいますね」
深優はそれ以上のことは言わなかった。行きましょうか、と歩き出す。こちらもあまり深くは聞かず、お店を見てまわった。せっかくお祭りにきたんですから楽しみませんとね、といつの間に買ったのか綿菓子を頬張っている。
「綿あめは思い出の味がします」
としゃべりながら、顔より大きい雲菓子を幸せそうに食べる姿を見て私も欲しくなる。たまらず一つ買った。一口食べると、甘い香りが鼻に抜ける。すーっと口のなかに溶けて消えた。祭りといえばりんご飴もあるが、綿あめのほうが好きだった。
「祖母が必ずお祭りの時に買ってくれたんですよ。今でも綿あめを食べると祖母を思い出します」
「そうなんだ、じゃあおばあちゃんっ子なんだね」
「わたしは祖父母に育てられましたから、そうですね」
触れない方がよい部分に触れてしまったかと焦ったが、彼女はお気を遣わずに、と笑った。
「両親はわたしが三歳のときに亡くなったんで、それから祖父母に育てられました」
だからさっき高山さん親子の姿をじっと見ていたのか。傍から聞けばとても寂しい話しであるのに、深優は穏やかな表情で言葉をつづけた。
「でも、祖父母がたくさん愛情を注いでもらいましたから寂しい思いはあまりなかったんです」
そしてにっこり笑って、また綿菓子を口に運んでいく。ご両親がいない寂しさは深いところにはあるのだろうが、どこか悟ったような面持ちだった。
「空から、わたしの姿が届いていればそれできっと親孝行できているだろうと思って」
そう言って深優は天を仰ぎみて、口角をあげた。同い年であるのに、彼女の方がずっと大人のように感じた。
「なんだかけっきょく、しんみりしてしまいましたね」
苦笑いして私に謝った。
「ううん、話し聞かせてくれてありがとう」
と、話しているところに腹の虫が盛大に鳴った。私ではなくおそらく深優の。顔を赤くして
「わたしの腹の虫は空気の読めない子みたいですね」
とお腹をなでた。その言葉で、耐え切れなくなって吹き出してしまう。
「なんかそんなところも深優らしいよ」
何か食べに行こう、と食べ物の出店に歩きだした。




