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さくら荘の珍住人  作者: 和泉あや子
第二章 住人のギャップ
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第二章5 家族と祭りと思い出と

 深優の見事な射撃を見ていたまわりのお客さんも、つられてやり始める。来たころより客は増えていた。

 いとも簡単に彼女は的の商品をすべて撃ち落としたが、景品は受けとらなかった。なんでも、ただ撃ち落としたいだけだと言う。店主もそれは承知で、景品を渡さなくていい代わりに、弾数を多くサービスしてくれるらしい。

 私はというと何発か撃ってやっと一つ、お菓子の箱を撃ち落とした。その後も深優のように百発百中とまでいかなくても、いくつかの景品をゲットできた。

「鈴も上手いですね。久しぶりにするっておっしゃっていましたけど、それにしても腕があります」

 と感心した表情で話した。スナイパーのように射的が上手い深優に褒められると嬉しい。誰かに習ったことがあるのですか、と聞いてきた。

「うーん、小さい頃に父に教えてもらったぐらいかな」

 幼い頃の記憶をたどりながら答えた。彼女はふっ、とほほ笑んで、お父様にですかと心なしか寂し気につぶやいた。なぜそんな寂しそうな表情をしたのだろうと疑問に思ったが、すぐいつもの明るい顔に戻った。

「ではお父様は射的のセンスがおありかもしれませんね」

「そうかな、射撃とかしていたとは聞いたことないけども。したことあるのかしらね」

 お父さんはどちらかといえば野球好きだったけど、どうなんだろう。こんど聞いてみようか。

「深優はなんでそんなに上手いの?」

 どこかで習ったことがあるのかと思って尋ねてみた。

「あ、わたしは独学で」

 本とかは読みましたけど、と付け加えてはにかんだ。独学でこんなに上達するものなのか。驚いて、声をあげてしまう。あなたって多才ね。

「我流ですけれど、的に当てるのが楽しくて。毎年祭りのたびに練習していたらこうなりました」

 彼女は店主の方を向いて、おじさんには迷惑おかけしちゃいましたけど、と笑う。

「いい客寄せになって、助かるからかまわないぜ」

 たしかに彼女のおかげなのか次々に客が来ていた。


 深優お姉ちゃんだ! と叫びながら、舞ちゃんが走ってきた。後ろから遅れて俊也さん、真美さんが歩いてくる。こんにちは、と深優は舞ちゃんの頭をなでた。俊也さんは射的か、とどうやらやってみたいような雰囲気で言った。射的用の銃とはいえ、強面の俊也さんが持つと怖い画になりそうだなと思ってしまう。

 舞ちゃんがやりたいと言い出し、

「よし、やってみるか」

 と父親もやる気満々で料金を払った。俊也さんがまだ背の小さい娘を抱っこして、どれが欲しい? と聞いている。

 その光景をみて、自分の子供の頃の記憶がよみがえってきた。私もお父さんにああやって教えてもらったっけ。景品が欲しくてねだったのは覚えているのに、何を欲しがったんだったか思い出せなかった。

 さっそく撃ち始める高山さん親子。けれどもかする程度にしか当たらない。見かねた深優がもう少し脇を締めて、とアドバイスした。すると先ほどより弾が的に近づいて景品が落ちた。舞ちゃんが嬉しそうに声をあげた。

「パパ大好きー」

 と景品のぬいぐるみを抱きながら言っている。次のお店へ行こうか、と俊也さんが話しながら、

「深優ちゃんアドバイスありがとうよ。それじゃあまたな」

 と歩いて行った。



 家族三人のうしろ姿を見送っていると、深優が静かに

「ああいうの、憧れます」

 とつぶやいた。


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