第二章3 春の祭り
オーダーメイドで服を仕立てるなんてはじめてで、何度も鏡のまえに立ってしまう。まだ入学式当日までには日数あるのに。
あまり着てしまうと当日の楽しみが減ってしまうかと、普段着に戻って一息ついたところで、チャイムが鳴った。
誰だろうと出ると、深優が扉の外に立っていた。上がってく? と聞いたら、いえ、すぐ済みますのでここで、と言った。
「急ですけど、明日は予定、空いていますか?」
と尋ねてきた。いきなり何を言いだすのだろうと思いつつ
「空いているけど」
私が答えると、顔をぱっと輝かせて良かった! と叫んだ。
「明日なにかあるの?」
深優の勢いに圧倒されながら聞くと
「春のお祭りなんです」
わくわくした様子で話し始めた。
「毎年楽しみにしているんですよ。春と晩夏の二回、そこの神社で行われるんです」
お祭りか。小さいときに家族で行った以来、しばらく行ってないな。楽しそうね、と答えた。
「それで鈴も一緒にいかがですか?」
誘ってくれたことが嬉しくて、すぐに、行きたいと返事した。お花見もかねて行きましょうと両手をたたいて話す深優。明日の十一時ごろにさくら荘の庭で待ち合わせる約束をして部屋に戻った。
朝食をさっさと済ませ、何着ていこうとクローゼットの服を引っぱり出してみる。夏なら浴衣を着るけど、春だしまだ寒いから薄手のセーターにスカートの組み合わせに決めた。ジャケットを羽織ってさくら荘の庭に出た。
深優を待っていると、高山さん一家が上の階から降りてきた。舞ちゃんは赤い甚平を着て跳ねながら歩いてきた。奥さんがこんにちは、と声をかけてきた。こちらも挨拶し、
「お祭りですか」
と聞いた。真美さんが答えるよりも早く舞ちゃんが
「お祭り楽しみなの!」
と顔がはちきれんばかりの笑顔で言った。私も、と返事した。
「舞は祭りがすきだもんな」
俊也さんが娘の頭をなでながら言った。相変わらず見た目は怖いが、話すと風体ほど怖くない。パパ肩車、とせがむ舞ちゃんを担いで、高山さんはそれじゃあな、とさくら荘を後にした。
お待たせしてすみません、と後ろで深優の声がした。ふり返って深優の姿を見て、固まる。アップにした髪にかんざしの飾りがゆれ、袴姿の凛とした彼女の姿が……。
「深優、その恰好は」
言葉につまる。大学の卒業式ぐらいしか袴って着ないイメージなんだが。さすがにそこまで派手な色柄ではないが、桜の柄が華やかだった。彼女は驚きました? と笑う。
「わたし、着物大好きなんですよ。特に袴が」
どうですか、と一回転して見せる。
「とっても似合ってるよ」
でもなんで袴? と思い聞けば
「本当は普段から着たいんですけど、洋服が定着した現代で着物って浮いちゃうんですよね」
としょんぼりした様子。お祭りくらいならいいかなと思いまして、と袖をひらひらさせて言う。お祭りなら甚平でもいいのでは? と言えば袴が着たいと笑った。
「それでは行きましょうか」
深優は下駄をカランカランと鳴らして歩きはじめた。
堂々と歩く彼女の隣に並ぶと、私服の私の方が浮いてる気がした。




